「カフェを開きたいけれど、どんな許可がいるのだろう」「保健所の検査で何を見られるのか不安」——飲食店の開業をお考えの方から、こうしたご相談を数多くいただきます。
飲食店の営業には、食品衛生法にもとづく「飲食店営業許可」が必要です。無許可で営業すれば罰則の対象になりますし、内装工事を終えてから施設基準を満たしていないと判明すれば、追加工事で数十万円の損失が出ることもあります。
この記事では、飲食店営業許可の基本を整理します。2026年8月現在の制度をもとに解説します。
この記事でわかること
- 飲食店営業許可が必要なケースと、届出で足りるケースの見分け方
- 許可を取るための人的要件・物的要件・欠格事由の全体像
- 申請から許可までの流れ、必要書類、費用と期間の目安
- テイクアウトや深夜のお酒の提供で追加になる手続き
- 初めての方がつまずきやすいポイントと、許可取得後の義務
結論:飲食店を開くなら「営業許可」と「食品衛生責任者」が必須
まず答えからお伝えします。店舗で調理した飲食物をお客様に提供するなら、保健所への飲食店営業許可の申請が必要です。根拠は食品衛生法第55条です。あわせて、施設ごとに食品衛生責任者を1名以上置かなければなりません。
この2つは、いわば車の両輪です。どちらが欠けても営業は始められません。逆に言えば、この2点さえ早い段階で押さえておけば、開業準備の見通しは一気に立てやすくなります。
おおまかな全体像は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請先 | 店舗の所在地を管轄する保健所 |
| 根拠法令 | 食品衛生法第55条(営業許可)/第54条(施設基準) |
| 主な要件 | 食品衛生責任者の設置、施設基準への適合、欠格事由に該当しないこと |
| 法定費用 | おおむね16,000〜19,000円程度(自治体により異なる) |
| 標準処理期間 | 申請から2週間〜1か月程度 |
| 有効期間 | 5年以上(施設の状況や自治体の運用により最長8年程度) |
※手数料や有効期間は自治体ごとに条例で定められています。実際の金額は管轄保健所でご確認ください。
飲食店営業許可の基本|2021年の法改正で変わった3つの点

ネット上には古い情報も残っているため、まず現行制度を正確に押さえておきましょう。食品衛生法は2018年に大きく改正され、営業許可制度については2021年6月1日から新制度が動いています。
許可業種が34業種から32業種に再編された
従来の許可業種は、実態に合わせて整理されました。リスクの高い食品を扱う業種に許可制を集中させ、それ以外は届出制へ移す、という考え方です。この再編によって、自分の業態がどの区分に当たるのかを改めて確認する必要が生じました。
「喫茶店営業」の区分がなくなった
かつては、コーヒーや軽食のみを出す店舗向けに「喫茶店営業許可」という区分がありました。現在この区分は廃止され、飲食店営業許可に統合されています。カフェを開く場合も、取得するのは飲食店営業許可です。
実務でも、古い記事を読んで「うちは喫茶店営業でいいんですよね?」とご質問をいただくことがあります。現在はその区分が存在しない、とご説明しています。
HACCPに沿った衛生管理が義務化された
HACCP(ハサップ:食品の製造・調理工程で危害要因を分析し、重要管理点を継続的に監視する衛生管理手法)への対応が、原則としてすべての食品等事業者に義務づけられました。
とはいえ、小規模な飲食店が国際規格の認証を取る必要はありません。業界団体が作成した「手引書」に沿った衛生管理計画をつくり、日々の記録を残す——これで足りるとされています。ちなみに、この計画書は許可申請時ではなく、営業開始後の立入検査などで確認されるのが一般的です。
許可が必要なケース・不要なケースの判断基準
「自分の商売に許可が要るのか」は、最初の分かれ道です。判断の軸は、調理・加工を行うかどうかと、扱う食品のリスクの大きさにあります。
飲食店営業許可が必要な代表例
- レストラン、居酒屋、ラーメン店、カフェ、バー
- キッチンカー(移動販売車)※車両用の施設基準が別に定められています
- 店内調理した弁当・惣菜のテイクアウト販売
- 宅配・デリバリー専門店、ゴーストレストラン
- ホテルや旅館の食事提供施設
届出で足りるケース・許可も届出も不要なケース
2021年の改正で新設されたのが営業届出制度(食品衛生法第57条)です。許可業種にも届出不要業種にも当たらない営業は、保健所への届出が必要になります。届出に手数料はかからず、有効期間もありません。
| 区分 | 具体例 | 手続き |
|---|---|---|
| 許可が必要 | 飲食店、菓子製造、そうざい製造、食肉販売など32業種 | 保健所の営業許可 |
| 届出が必要 | 包装済み食品の販売、乾物・調味料の販売、コーヒーの焙煎など | 保健所への営業届出 |
| 不要 | 常温保存可能な包装食品の販売の一部、農産物の採取業など | 手続き不要 |
飲食店営業許可「だけ」では足りない場合に注意
ここが最も見落とされやすいポイントです。飲食店営業許可でカバーされるのは、その場で調理して提供する行為が中心になります。次のような販売を行うなら、別の許可が要る場合があります。
- パン・ケーキ・焼き菓子を製造して販売する → 菓子製造業許可
- 惣菜をパック詰めして他店やスーパーに卸す → そうざい製造業許可
- 自家製ソースやジャムを瓶詰めして売る → ソース類製造業などの許可
- アイスクリームを製造して販売する → アイスクリーム類製造業許可
たとえば「カフェで出しているシフォンケーキを、お土産用にも売りたい」というご相談はよくあります。この場合、飲食店営業許可に加えて菓子製造業許可が必要になるケースが一般的です。判断は自治体の運用にも左右されるため、開業前に保健所へ確認しておくと安心でしょう。
飲食店営業許可の要件一覧|人的・物的・欠格事由
許可の要件は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 要件の種類 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 人的要件 | 食品衛生責任者を施設ごとに1名以上置くこと | 資格保有者がいなければ講習会の受講が必要 |
| 物的要件 | 厚生労働省令の共通基準と自治体条例の基準に適合すること | 内装工事の着工前に図面段階で相談する |
| 欠格事由 | 過去の許可取消しなど一定の事由に該当しないこと | 法人の場合は役員全員が対象 |
人的要件:食品衛生責任者は誰でもなれる

食品衛生責任者は、店舗の衛生管理を担う責任者です。難関資格ではなく、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会を1日(約6時間)受ければ資格を得られます。受講料は12,000円前後が目安です。
なお、次の資格をお持ちの方は講習が免除されます。
- 調理師、製菓衛生師、栄養士、管理栄養士
- food専門の学科を修めた方など、自治体が定める要件に該当する方
- 医師、歯科医師、薬剤師、獣医師 ほか
講習会は人気があり、地域によっては1〜2か月先まで予約が埋まっていることも珍しくありません。開業日が決まっているなら、真っ先に予約を押さえるべき項目です。
物的要件:施設基準は「見えない部分」が落とし穴
物的要件、いわゆる施設基準は、許可の可否を左右する最大の関門です。設計のやり直しが起きるのもこの部分になります。共通してチェックされるのは、おおむね次のような点です。
- 手洗い設備:従業員専用のものを設け、消毒液を備える。多くの自治体で非接触型(自動水栓やレバー式)が求められます
- シンク(洗浄設備):原則2槽以上。食器洗浄機の設置で緩和される場合があります
- 区画:厨房と客席を扉などで明確に分ける
- 冷蔵・冷凍設備:内部の温度が確認できる温度計を備える
- 床・壁・天井:清掃しやすく、耐水性のある材質であること
- 換気設備:蒸気や熱がこもらない構造であること
- 更衣室・保管設備:従業員の私物と食品を分けて保管できること
- 給湯設備:洗浄・消毒に必要な湯が使えること
基準の細部は自治体ごとの条例で定められており、手洗い設備の大きさや設置数、シンクの寸法などに違いがあります。「東京都の基準で工事したら、隣県では通らなかった」という事態も起こりえます。必ず出店先の保健所の基準を確認してください。
欠格事由:過去の処分歴に注意
食品衛生法第55条第2項では、一定の場合に許可を与えないことができると定めています。代表的なのは、食品衛生法違反で許可を取り消され、その日から2年を経過していないケースです。法人で申請する場合は、業務を執行する役員全員が判断の対象になります。
申請の流れ・必要書類・費用・期間

ここからは、実際の手続きを時系列で見ていきます。順番を間違えないことが、何よりのコツです。
申請から許可証交付までの5ステップ
- 保健所への事前相談:物件が決まり、内装の図面ができた段階で相談します。工事の着工前が鉄則です
- 食品衛生責任者の資格取得:講習会を予約・受講します
- 申請書の提出:工事完了予定日の10日前程度までに提出するのが一般的です
- 施設検査(立入検査):保健所の食品衛生監視員が現地を確認します
- 許可証の交付:検査合格後、数日〜2週間ほどで交付されます
検査で不備が見つかると、改善後に再検査となります。当然ながら開業日はずれ込みます。この再検査を避けられるかどうかが、事前相談の価値そのものだと言えるでしょう。
必要書類チェックリスト
- 営業許可申請書
- 営業設備の大要・配置図(厨房機器の配置がわかる図面)
- 店舗の平面図、給排水系統図
- 食品衛生責任者の資格を証明する書類(修了証、免許証の写しなど)
- 法人の場合:登記事項証明書
- 水道水以外(井戸水など)を使う場合:水質検査成績書
- 許可申請手数料
なお、厚生労働省の「食品衛生申請等システム」を使えば、オンラインでの申請も可能です。ただし図面の提出方法など、運用は自治体によって異なります。
費用の目安
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 営業許可申請手数料 | 16,000〜19,000円程度 | 自治体の条例で決定(※要確認) |
| 食品衛生責任者養成講習会 | 10,000〜12,000円程度 | 有資格者は不要 |
| 水質検査(井戸水利用時) | 10,000〜30,000円程度 | 水道水のみなら不要 |
| 行政書士報酬(相場感) | 40,000〜80,000円程度 | 事務所・業務範囲により差があります |
法定費用そのものは、他の許認可と比べれば高額ではありません。むしろ設備投資への影響が大きい点に注意が必要です。基準を満たさない設計で工事を進めれば、シンクの追加や手洗いの増設で数十万円かかることもあります。
期間の目安と、許可後の更新・変更手続き
申請から許可証交付までは2週間〜1か月程度が目安です。ただし、事前相談や講習会の受講期間を含めると、準備開始から2〜3か月をみておくと安全でしょう。
許可は取って終わりではありません。取得後は次の義務が続きます。
- 更新申請:有効期間の満了前に手続きします。多くの自治体では満了の1か月前までが目安です
- 変更届:屋号、営業者の住所、法人役員などが変わった場合
- 廃業届:営業をやめたとき
- 衛生管理計画の実施と記録:HACCPに沿った日々の記録を保存します
更新を失念して有効期間が切れると、継続ではなく「新規申請」扱いになる場合があります。その間は営業できません。許可証に記載された満了日は、カレンダーに登録しておくことをおすすめします。
あわせて必要になる手続きと、よくある間違い
飲食店の開業では、保健所以外の窓口にも足を運ぶことになります。営業スタイルに応じて確認してください。
| 手続き | 必要になる場合 | 窓口 |
|---|---|---|
| 深夜酒類提供飲食店営業開始届出 | 深夜0時以降も酒類を提供する(バー、居酒屋など) | 警察署(風営法第33条) |
| 風俗営業許可 | 接待をともなう営業(スナック、キャバクラなど) | 警察署(風営法第3条) |
| 防火管理者の選任・届出 | 収容人員30人以上の店舗 | 消防署(消防法) |
| 防火対象物使用開始届 | 建物の使用を開始するとき | 消防署 |
| 開業届・青色申告承認申請 | 個人事業として開業するとき | 税務署 |
とくに深夜酒類提供飲食店営業の届出は、営業開始の10日前までに提出しなければなりません。しかも、住居専用地域では原則として営業できないなど、用途地域の制限もあります。物件契約の前に確認すべき事項です。
初心者が間違えやすい3つのポイント
- 内装工事を終えてから保健所に相談する:最も多い失敗です。図面段階での相談が原則と考えてください
- 居抜き物件なら許可を引き継げると思い込む:営業許可は営業者に対して与えられるものです。前の店の許可は引き継げず、新規申請が必要になります
- テイクアウトも当然できると考える:店内調理品の持ち帰りは可能でも、製造・卸売には別の許可が要る場合があります
よくある質問(FAQ)
Q1. 自宅のキッチンで飲食店営業許可は取れますか?
原則として、家庭用のキッチンをそのまま使うことはできません。営業用の施設と居住スペースを明確に区画する必要があり、専用の手洗い設備や2槽シンクなども求められます。自宅の一部を改装して基準を満たせば、許可を取得できる可能性はあります。
Q2. 許可なしで営業するとどうなりますか?
食品衛生法違反として、営業停止などの行政処分や罰則の対象になります。加えて、食中毒などの事故が起きた際に保険が使えないおそれもあります。リスクに見合いません。
Q3. キッチンカーでも同じ許可でよいのでしょうか?
キッチンカーも飲食店営業許可が必要ですが、車両専用の施設基準が定められています。給排水タンクの容量によって提供できるメニューが制限される点が特徴です。また、許可は自治体ごとに取得するのが原則で、営業したい地域が複数にまたがるなら、それぞれの保健所で手続きします。
Q4. 法人と個人事業主で手続きは変わりますか?
基本的な流れは同じです。法人の場合は登記事項証明書の提出が必要になり、欠格事由の確認も役員全員が対象となります。なお、個人で取った許可を法人へ引き継ぐことはできません。法人成りの際は新規申請が必要です。
Q5. 行政書士に依頼するメリットは何ですか?
書類作成の手間が減ることに加え、図面段階での基準チェックが大きな価値になります。工事後の手戻りを防げれば、報酬以上の効果が出ることも少なくありません。開業準備で忙しい時期に、手続きを任せられる安心感もあるでしょう。
まとめ|準備の順番を間違えないことが成功の鍵
飲食店営業許可のポイントを整理します。
- 店舗で調理して提供するなら、飲食店営業許可(食品衛生法第55条)が必要
- 食品衛生責任者を施設ごとに1名以上置く。講習会の予約は早めに
- 施設基準は自治体ごとに差がある。工事の着工前に保健所へ相談する
- 法定費用は2万円前後、期間は申請から2週間〜1か月が目安
- テイクアウトの製造販売や深夜のお酒の提供には、追加の許可・届出が必要な場合がある
- 取得後も、更新・変更届・HACCPに沿った衛生管理の記録が続く
飲食店の開業は、物件探しから資金調達、メニュー開発まで、やるべきことが山積みです。そのなかで許認可は「後回しにすると最も高くつく」項目だと言えます。順番さえ守れば、決して難しい手続きではありません。
※本記事は2026年8月現在の法令・制度にもとづいています。施設基準や手数料は自治体ごとに異なるため、最新の要件は管轄の保健所に必ずご確認ください。
