同性パートナーは手術同意できる?医療同意権の正しい理解

手術の同意書にサインできるのは、法律上は患者本人だけです。同性パートナーに医療同意権がないのは事実ですが、それは戸籍上の配偶者や親子であっても、家庭裁判所が選任した成年後見人であっても変わりません。医療行為への同意は本人の自己決定権にもとづく一身専属的な権利と解されており、本人以外の第三者が代わって決められるとする規定は、日本の法令に存在しないためです。

同意書に家族の署名欄が設けられているのは法律の要請ではなく、医療現場の慣行にすぎません。そのため、備えとして意味を持つのは同意権を手に入れることではなく、本人が判断できなくなったときに医療者が本人の意思を推定できる状態をつくっておくことになります。その手段が、事前指示書と、繰り返し話し合うプロセスであるACP(人生会議)です。

※2026年9月現在の情報です。運用は医療機関によって異なるため、個別の対応は受診先の医療機関にご確認ください。

目次

手術に同意できるのは本人だけ

医療行為に同意する権限は、患者本人にのみ認められた一身専属的な権利です。本人の意思が確認できない場合に本人以外の誰が決めるのかについて、法令で定められた一般的なルールは存在せず、社会通念や各種ガイドラインにもとづいて個別に判断されているのが現状にあたります。

根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(2019年6月)

医療法も、医療の担い手が適切な説明を行い理解を得る努力義務を負う相手として、「医療を受ける者」すなわち患者本人を想定しています。説明も同意も本人を中心に組み立てられている以上、家族の同意はもともと法律の枠組みの外にある慣行だといえます。

根拠:医療法 第1条の4第2項

同意書に家族の署名欄がある理由

手術同意書に家族の署名欄が設けられているのは、緊急時の連絡先の確保、術後の付き添いや介護の見通し、治療費の支払いに関する確認といった、医療機関側の運用上の必要によるものです。本人に判断能力があれば、法的には本人だけの署名で同意は有効に成立します。家族の署名は同意の要件ではなく、説明を受けた事実の記録に近い位置づけにとどまります。

この点を取り違えると、「家族の署名がなければ手術できない」という説明を法律上の制約として受け取ってしまい、交渉の余地がない話だと諦めることになります。院内ルールの問題であれば、医療ソーシャルワーカー(MSW)や看護師長を通じた相談によって扱いが変わる余地は残されています。

同性カップルだけの問題ではない

同性パートナーが手術同意を断られる場面は、法律婚ができないことに固有の不利益として語られがちですが、正確には日本の医療同意制度そのものに代諾の根拠が置かれていないことに由来します。単身の高齢者や、親族と疎遠になった人が直面している課題と、構造は共通しています。

もっとも、慣行として「家族」が求められる以上、戸籍上の関係を示せないカップルが事実上いちばん先に排除されるのも確かです。制度に穴があるという前提を共有したうえで、その穴を埋める書面を本人が自分で用意しておく発想に切り替える必要があります。

成年後見人にも医療同意権はない

判断能力が低下したときに備えて成年後見制度を利用していても、医療同意の問題は解決しません。成年後見人等の第三者が医療にかかる意思決定や同意をできるとする規定はなく、本人に提供される医療への決定・同意は後見人等の業務に含まれていないと整理されています。

根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」本文(PDF)(2019年6月)

民法が後見人に与えているのは「療養看護に関する事務」まで

民法は成年後見人の職務を、本人の生活・療養看護および財産の管理に関する事務と定めています。ここでいう療養看護の事務とは、診療契約や入院契約、介護サービス契約の締結といった法律行為を指すものであり、手術に同意するといった身体への侵襲をともなう判断そのものは含まれません。契約を代理できる権限と、身体をどう扱うかを決める権限は、法的にまったく別の性質を持っています。

根拠:民法 第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)

国のガイドラインは「サインを強要しない」と明記している

国のガイドラインは医療機関に向けて、現行制度では成年後見人等の役割にいわゆる医療同意権までは含まれないことに十分留意し、成年後見人等に同意書へのサインを強要しないよう求めています。あわせて、説明した事実を記録に残したい場合には「成年後見人として担当医の説明を受けました」といった記載で対応する方法も示されています。

根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」本文(PDF)(2019年6月)

後見人等に期待されているのは同意ではなく、本人が受けたいと表出していた医療や好んでいたことなど、意思を推定する材料となる情報を集めて医療機関に提供する役割です。誰が決めるかではなく、本人の意思をどう再現するかに軸足が置かれています。

任意後見契約でも結論は同じ

判断能力があるうちに自分で後見人を選んでおく任意後見契約でも、委託できるのは生活・療養看護および財産の管理に関する事務であり、法定後見と範囲は変わりません。代理権目録に「医療行為への同意」と書き込むことはできず、公証人が契約書を作成する段階で認められない項目にあたります。パートナーを任意後見受任者に指定しても、この一点だけは委任できません。

根拠:任意後見契約に関する法律 第2条第1号・第3条

立場別に整理すると

立場診療契約・入院契約手術などへの同意根拠・位置づけ
本人できるできる自己決定権にもとづく一身専属的な権利
戸籍上の配偶者・親子本人の委任があれば代理できるできない同意権を定めた規定はない。署名は現場の慣行
成年後見人・保佐人・補助人代理権の範囲でできるできない民法第858条の「療養看護に関する事務」に含まれない
任意後見人代理権目録の範囲でできるできない代理権目録に医療同意を記載できない
同性パートナー本人の委任があれば代理できるできない家族と同じく同意権はない。意思推定の担い手にはなれる

成年後見制度における意思決定支援については、最高裁判所と厚生労働省などによるワーキング・グループが後見事務のガイドラインを策定しており、判断能力が不十分な場合にも本人の意思を尊重した支援を行う考え方が示されています。

根拠:裁判所「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(2020年10月策定)

本人が判断できないとき、医療者は何を基準に決めるのか

同意権を持つ人がいないのであれば、実際の医療現場では何を手がかりに方針が決まるのかが問題になります。国のプロセスガイドラインは、本人の意思が確認できない場合の手順を次の4段階で示しています。

  1. 家族等が本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとる
  2. 家族等が意思を推定できない場合は、本人にとって何が最善かを家族等と十分に話し合って決める
  3. 家族等がいない場合や家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、本人にとっての最善の方針をとる
  4. 話し合った内容は、その都度文書にまとめておく

根拠:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(PDF)(2018年3月改訂)

判断の中心に置かれているのは「誰に決める権限があるか」ではなく、「本人が何を望んでいたか」です。同意権という切り口では出口がない一方、意思の推定という切り口であれば、生活をともにしてきたパートナーこそ最も豊富な材料を持つ立場になります。

「家族等」に同性パートナーは含まれる

推定の担い手となる「家族等」の範囲について、国のガイドラインは、本人が信頼を寄せ本人を支える存在という趣旨であるとして、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含み、複数人存在することも考えられると説明しています。親しい友人までを含む定義である以上、生活をともにしてきたパートナーを除外する理由はありません。

根拠:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編」(PDF)(2018年3月改訂、注12)

意思を推定する人を、本人が前もって指名できる

備えとして決定的に重要なのがこの点です。同ガイドラインは、本人が自らの意思を伝えられない状態になる場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要であると明記しています。指名された人がいる場合には、その人から十分な情報を得たうえで、本人が何を望むかを医療・ケアチームとの間で話し合うことが求められます。

根拠:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編」(PDF)(2018年3月改訂、注13)

同意権は誰にも移せませんが、意思推定の担い手を指名する行為は、本人が自分の判断でいま実行できます。同性カップルが現行制度のもとで確保できる最も実効的なポジションが、この「本人が指名した意思推定者」という立場にあたります。

事前指示書に書いておくべき4項目

その指名と意思を書面に落とし込んだものが事前指示書です。定まった様式はないため自由に作成できますが、医療現場で機能させるには次の4項目を押さえておく必要があります。

記載項目書く内容効く場面
意思推定者の指名判断できなくなったとき、自分の意思を推定してもらいたい相手として、パートナーの氏名・生年月日・連絡先を明記する治療方針の決定、医療・ケアチームとの話し合い
情報開示への同意病状や検査結果の説明を、指名した相手に対して行うことへの同意を書く病状説明、カルテの開示
受けたい・受けたくない医療延命措置、人工呼吸器、胃ろう、心肺蘇生などについての希望と、その理由となる価値観終末期の方針決定
作成日と署名本人の自署と作成年月日。内容を見直したら日付を更新して差し替える意思の新しさの確認

病状説明の可否は個人情報保護法の枠組みで判断されるため、情報開示への同意をあらかじめ書面にしておくと、担当医が判断に迷う場面が減ります。患者の病歴は要配慮個人情報にあたり、本人以外への提供には原則として本人の同意が必要とされているためです。

根拠:個人情報の保護に関する法律 第2条第3項、第27条第1項

法的拘束力については未確定である

事前指示書の効力を正面から定めた法律は、2026年9月現在の日本には存在しません。書面があれば医療者が必ずそのとおりに動くと約束されているわけではなく、確定しているのは、国のガイドラインが本人の意思を推定する材料として書面を重視している点までです。終末期医療における意思表示の法制化については議論が続いており、今後の動向によって前提が変わる可能性があります。

それでも作成する価値があるのは、指名も希望も残さなかった場合、医療者が参照できる材料がゼロになるためです。効力の保証がないことと、役に立たないことは同じではありません。

作成と保管の実際

公正証書にする義務はなく、自筆の書面でも内容そのものの効果に差はありません。ただし公証役場で作成すれば作成日と本人の意思が公的に記録されるため、親族から関係を否定された場面では説得力が違ってきます。任意後見契約公正証書やパートナーシップ合意契約公正証書を作る機会があれば、あわせて整えるのが効率的です。

保管については、原本の場所を二人で共有し、写しをスマートフォンに保存して常時提示できる状態にしておきます。自宅の引き出しにしまわれた書面は、深夜の救急外来では存在しないのと変わりません。かかりつけ医がいる場合には、あらかじめ写しを渡してカルテに残してもらう方法も有効です。

ACP(人生会議)が事前指示書とセットで必要な理由

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、もしものときに望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合って共有する取り組みで、厚生労働省は「人生会議」という愛称で普及を進めています。書面が一時点の記録にとどまるのに対し、ACPは意思が変化することを織り込んだ継続的なプロセスにあたります。

根拠:厚生労働省「『人生会議』してみませんか」

国のガイドラインが2018年の改訂でACPの概念を盛り込んだ背景には、本人の意思は変化しうるものであり、一度書いた書面だけでは本人の現在の希望を再現できないという認識があります。数年前に書いた延命措置の希望が、病気を経験したあとの本人の考えと食い違う事態は起こりえます。

話し合いに同席した事実が、書面を補強する

事前指示書が単独で置かれている場合と、本人・パートナー・医療者が繰り返し話し合った記録が診療録に残っている場合とでは、緊急時の扱いが変わります。話し合った内容はその都度文書にまとめておくものとされているため、同席を重ねるほど、パートナーが意思推定の担い手であることが医療機関側の記録に蓄積されていきます。

ちなみに、国の意識調査でも「家族等」には家族以外の信頼できる友人や知人を含めることが明示されており、話し合いの相手を親族に限る前提は国の側にもありません。かかりつけ医の外来にパートナーとして同行することから始められます。

大多数はまだ話し合っていない

人生の最終段階で受けたい医療について家族等や医療・介護従事者と話し合っているかを尋ねた調査では、一般国民(3,000人)のうち「詳しく話し合っている」は1.5%、「一応話し合っている」は28.4%にとどまり、「話し合ったことはない」が68.6%を占めました。人生会議を「知らない」と答えた人も72.1%にのぼります。

根拠:厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について」(PDF)(調査期間 2022年11月〜2023年1月)

裏を返せば、話し合いを済ませ書面まで整えているカップルは、医療現場で参照できる材料の量において少数派の側に立てます。準備の有無がそのまま対応の差になりやすい領域だといえます。

二人で確認しておく項目

  • 延命措置や人工呼吸器について、どこまでを望みどこからを望まないか
  • 意識が戻らない場合に、誰に判断への関与を求めたいか
  • 親族に知らせてよい範囲と、二人の関係を伝えることの可否
  • かかりつけ医や訪問看護など、日常的に相談できる医療者がいるか

親族への開示範囲は同性カップルに特有の論点で、あらかじめ本人の意向を確認しておかないと、緊急時にパートナーが重い判断を迫られます。カミングアウトの可否は本人だけが決められる事柄であり、書面に残しておくことで残された側の負担が大きく軽くなります。

事前指示書と他の書面の役割分担

医療同意の問題は事前指示書とACPで対応する一方、生活や財産にかかわる論点はそれぞれ別の書面が担います。役割の違いを理解しておくと、抜けや重複を避けられます。

書面担う役割作成方法医療同意との関係
医療の事前指示書意思推定者の指名、治療方針の希望、情報開示への同意様式は自由。公正証書にもできる同意権は生じない。推定の材料として機能する
パートナーシップ合意契約公正証書相互に協力し扶助する関係であることの記録公証役場関係性の証明として、面会や説明の場面で効く
任意後見契約公正証書判断能力の低下後の入院契約・財産管理の代理公証役場(法律上の要件)契約の代理まで。医療同意は含まれない
遺言書パートナーへの財産の承継自筆証書または公正証書関係しない(死後の財産の問題)
死後事務委任契約葬儀・納骨・行政への届出などの実行契約書。公正証書が望ましい関係しない(死後の手続きの問題)

優先順位をつけるなら、医療の事前指示書は費用がほとんどかからず今日にでも書ける点で、最初に着手すべき書面になります。任意後見契約や遺言書は公証役場での手続きに数万円と日数を要するため、事前指示書を先に整えてから順に進めると負担が分散します。

なお、自治体のパートナーシップ宣誓制度の受領証は、関係性を第三者が確認している事実を示す材料として面会や病状説明の場面で機能しますが、法的効力はなく、受領証があるからといって医療同意ができるようになるわけではありません。事前指示書の代わりにはならない点に注意してください。

よくある質問

Q1. 家族なら手術に同意できるのに、なぜパートナーはできないのですか

家族にも法律上の同意権はありません。医療同意は本人だけが持つ一身専属的な権利で、家族の署名は法律の要請ではなく医療現場の慣行にあたります。同性パートナーだけが権利を奪われているのではなく、代諾の仕組みそのものが日本の法令に用意されていない状況です。

Q2. 任意後見契約の代理権目録に「医療同意」と書けば有効になりますか

記載できません。任意後見で委託できるのは生活・療養看護および財産の管理に関する事務であり、入院契約などの法律行為が対象になります。手術への同意は権限の範囲外で、公証人が契約書を作成する段階でも認められません。

Q3. 事前指示書があれば、パートナーが治療方針を決められますか

決定権が移るわけではありません。事前指示書によってできるのは、本人の意思を推定する担い手としてパートナーを指名し、その意思の内容を書面で残しておくことです。最終的な方針は、医療・ケアチームが本人の推定意思と最善の利益を踏まえて判断します。

Q4. 事前指示書は公正証書にしないと効果がありませんか

自筆の書面でも内容の効果は変わりません。ただし公正証書にすれば作成日と本人の意思が公的に記録されるため、親族から関係や書面の真正を争われた場合に強い証拠となります。任意後見契約などを公証役場で作る際に、あわせて整えるのが効率的です。

Q5. 人生会議は元気なうちから始めても意味がありますか

意味があります。ACPは病気になってから始めるものではなく、意思が変化することを前提に繰り返し話し合うプロセスです。かかりつけ医の外来にパートナーとして同行し、記録に残る関わりを積み重ねておくことが、緊急時の対応の速さにつながります。

まとめ

手術に同意できるのは本人だけで、戸籍上の家族にも成年後見人にも任意後見人にも医療同意権はありません。同性パートナーが同意権を得る方法は現行制度に存在しないため、目指すべきは同意権の獲得ではなく、本人の意思を医療者が推定できる状態をつくることになります。

国のガイドラインは、意思を推定する人を本人が前もって指名しておくことの重要性を明記しており、その指名を書面にしたものが事前指示書です。そして書面だけでは意思の変化に追いつかないため、ACP(人生会議)として繰り返し話し合い、記録を積み重ねる作業が対になります。事前指示書で指名し、人生会議で更新するという組み合わせが、法律婚のない現状で最も実効性のある備えです。

※2026年9月現在の情報にもとづく一般的な整理です。個別の事情によって最適な備えは異なるため、制度の詳細は受診先の医療機関や公証役場にご確認ください。

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