
入院申込書の緊急連絡先に書ける親族や友人がいない場合、実際に書ける相手は3つあります。担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、そして緊急時対応を含む契約を結んでいる事業者です。
この3つは引き受けられる範囲がはっきり違い、ケアマネジャーは連絡と退院調整、地域包括支援センターは相談窓口としての受け皿、契約事業者だけが夜間の駆けつけまで約束できます。いずれも保証人になる役割は含みません。そして、どれにも当てはまらない場合、緊急連絡先の欄は空欄のままでも入院はできます。厚生労働省のガイドラインは、連絡先がないときの対応まで含めて手順を定めています。
※2026年9月現在の情報です。書式や運用は医療機関によって異なるため、具体的な取扱いは入院先にご確認ください。
緊急連絡先は「連絡を受ける人」であって、保証人ではない
緊急連絡先は、急変や事故が起きたときに病院から連絡を受ける役割を指します。全国の医療機関を対象とした調査では、身元保証人等に求める役割として「緊急の連絡先」を挙げた医療機関は84.9%にのぼりました。求められる頻度は高い一方で、この役割自体は法律上の債務をともないません。連絡を受けて相談に応じることと、入院費を支払うことは、まったく別の話です。
根拠:厚生労働科学研究「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」平成29年度総括・分担研究報告書(PDF)(研究代表者・山縣然太朗、身元保証人に関する調査 n=839)
注意が必要なのは、多くの書式で緊急連絡先の欄と身元保証人の欄が隣り合い、ひとつの署名でまとめて処理されている点です。連絡先として名前を書いたつもりが、その署名で入院費の連帯保証まで引き受けていたという事態は、この構造から起こります。誰かに頼む場合も、自分が頼まれた場合も、署名欄が保証条項と一体になっていないかを先に確認してください。
病院が緊急連絡先に期待していること
病院の側から見ると、緊急連絡先に期待されるのは主に3つです。ひとつは容体が急変したときの連絡、もうひとつは治療が終わったあとの退院先の相談、そして着替えや洗面用具といった入院中の物品の手配です。金銭の負担や身柄の引取りは、本来この役割には含まれていません。
厚生労働省のガイドラインも、医療機関が「身元保証・身元引受等」に求める機能を6項目に整理し、「緊急の連絡先に関すること」をその第1項目として、入院費や遺体の引取りとは別立てで扱っています。連絡だけを引き受けるという分け方は、制度の側でも前提になっています。
身近な人がいないとき、国のガイドラインが示す確認の順番
厚生労働省は2019年、身寄りがない人が必要な医療を受けられるようにするためのガイドラインを発出しました。ここには、緊急連絡先となれる人がいるかどうかを確認する手順が、フローチャートの形で示されています。
根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(PDF)(令和元年6月3日・医政総発0603第1号)
手順は明快です。まず親族・友人・知人の有無を確認し、いない場合には、生活保護の受給、日常生活自立支援事業の利用、身元保証団体の利用、介護・障害福祉サービスの利用があるかどうかを確認します。いずれかに該当すれば、その担当者へ連絡して緊急時の対応をどうするか相談する、という流れになります。つまり、身近な人がいない場合に病院が探すのは「代わりの家族」ではなく、すでに関わっている専門職や事業者です。

ガイドラインは、本人の状況に応じた相談窓口も具体的に挙げています。高齢者は市町村または地域包括支援センター、障害のある方は市町村または基幹相談支援センター等、生活保護受給者は生活保護の実施機関である福祉事務所、それ以外で経済的に困窮するおそれのある方は生活困窮者に対する相談窓口とされています。
どれにも当てはまらないときは、空欄のままで進む
該当するものが何もない場合の扱いも、ガイドラインに書かれています。この場合は「緊急の連絡先がないことを記録の上、考えられる緊急時対応について本人の意思決定を支援する」とされており、連絡先が用意できないことを理由に手続きが止まる想定にはなっていません。無理に遠い親族の名前を書くよりも、ないことをカルテに記録してもらったうえで、急変時にどうしてほしいかを話し合っておくほうが、ガイドラインに沿った対応になります。
① ケアマネジャー:制度が正面から想定している連絡先
介護保険の要支援・要介護認定を受けてケアマネジャーがついているなら、最初の選択肢はここです。担当ケアマネジャーの氏名と連絡先を病院に伝えることは、望ましい行いというレベルの話ではなく、介護保険の運営基準が事業者に課している義務にあたります。
指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第4条第4項は、指定居宅介護支援事業者は、サービス提供の開始に際してあらかじめ、利用者が病院または診療所に入院する必要が生じた場合には介護支援専門員の氏名および連絡先を当該病院または診療所に伝えるよう、利用者またはその家族に対し求めなければならないと定めています。
根拠:e-Gov 法令検索「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」第4条第4項(平成11年厚生省令第38号)
契約時にこの説明を受けているはずですから、入院時にケアマネジャーの連絡先を病院へ伝えるのは、制度が最初から用意している正規の流れです。遠慮する場面ではありません。
報酬の面でも、入院時の情報提供は評価されている
ケアマネジャーが入院先へ利用者の情報を届けることには、介護報酬上の評価がついています。入院時情報連携加算は、2024年度の改定で入院当日中の情報提供が(Ⅰ)250単位/月、翌日または翌々日の情報提供が(Ⅱ)200単位/月に見直され、より早い連携が評価される形になりました。
根拠:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(PDF)
引き受けられる範囲と、引き受けられない範囲
ケアマネジャーができるのは、病院への情報提供、退院に向けたサービス調整、担当者会議の開催、退院後の生活の組み立てです。これは本来の業務そのものであり、頼んで負担をかける類の依頼ではありません。
一方で、入院費の連帯保証、金銭の立替、身柄や遺体の引取りは業務の範囲外です。事業所には営業時間があるため、深夜や休日に必ず電話がつながるとも限りません。夜間の急変対応まで期待している場合は、ケアマネジャーだけでは足りないことになります。
② 地域包括支援センター:機関名と担当者名を書くという選択肢
まだ介護保険を使っていない、あるいは認定を受けていない方の受け皿になるのが地域包括支援センターです。介護保険法第115条の46にもとづいて市町村が設置する機関で、高齢者の総合相談を担っています。要支援・要介護の認定がなくても、おおむね65歳以上であれば相談できます。
センターは個人の代わりに緊急連絡先を引き受ける機関ではありません。それでも、身寄りのない方の相談先として国の通知が名指しで位置づけており、緊急時にどう動くかを一緒に決めておく相手にはなります。厚生労働省の通知では、身元保証等高齢者サポート事業に関する相談への対応が、市町村や地域包括支援センターの役割として整理されています。
根拠:厚生労働省老健局通知「市町村や地域包括支援センターにおける身元保証等高齢者サポート事業に関する相談への対応について」(老高発0830第1号・老振発0830第2号)(平成30年8月30日)
書き方と、書く前にすること
実際の書き方としては、緊急連絡先の欄に「○○地域包括支援センター 担当・○○」と機関名と担当者名を並べて記入し、電話番号を添える形になります。担当者名まで書いておくと、病院からの連絡が確実に届きます。
順番として大切なのは、書く前に本人からセンターへ一報を入れておくことです。事前の相談なく機関名だけを書くと、病院から電話を受けたセンター側が状況を把握できず、かえって対応が遅れます。入院の予定が決まった時点、あるいは決まりそうな時点で、事情を伝えて担当者を決めてもらってください。
65歳未満で障害のある方は基幹相談支援センターなど、生活保護を受給している方は福祉事務所の担当ケースワーカーが、同じ位置づけの相談先になります。すでに関わりのある担当者がいるなら、その方の所属と氏名を書くのが最短です。
③ 契約している事業者:唯一「駆けつけ」を約束できる相手
夜間や休日に実際に来てもらう必要があるなら、契約にもとづいて動く事業者が選択肢になります。高齢者等終身サポート事業者と呼ばれる民間サービスで、国のガイドラインは提供されるサービスの例として「緊急連絡先の指定の受託及び緊急時の対応」を明示的に挙げています。契約である以上、対応する時間帯、駆けつけの有無、物品の手配まで書面で決められる点が、前の2つとの決定的な違いです。
根拠:厚生労働省老健局「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(介護保険最新情報 Vol.1273・PDF)(令和6年6月、内閣官房ほか関係府省庁策定)
費用は確認しておくべき点です。総務省行政評価局の調査では、協力が得られた事業者の例として、サービスの利用開始時に必要な額が少なくとも100万円以上だった実態が報告されています。前払いの預託金をともなう長期契約になりやすいため、緊急連絡先だけを単独で引き受けてもらえるか、その場合の費用はいくらかを、契約前に個別に確認してください。
根拠:総務省行政評価局「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査 結果報告書」(PDF)(令和5年8月)
事業者を選ぶときの確認点
ガイドラインは努力を求める指針であり、法的な拘束力をともなう規制ではありません。守っていない事業者に罰則が及ぶ仕組みにはなっていないため、契約前の確認は利用する側で行う必要があります。
- ガイドラインに沿った重要事項説明書が用意されているか
- 預託金が事業者自身の資産と分けて管理されているか
- 緊急連絡先の受託だけを単独で契約できるか、費用はいくらか
- 解約したときの返金の計算方法が書面に明記されているか
弁護士・司法書士・行政書士といった専門職は、それぞれの業法による規制があるため、このガイドラインの対象からは外れています。見守り契約や任意後見契約を結び、その受任者を緊急連絡先として指定するという組み立て方もあります。任意後見契約は公正証書で作る必要があり、公証人手数料は1契約につき1万3000円、これに登記嘱託手数料1600円と収入印紙代2600円が加わります。
3つの選択肢を比べる
3つは競合するものではなく、重ねて使えます。ケアマネジャーがいる方が地域包括支援センターにも相談しておく、事業者と契約したうえでケアマネジャーの連絡先も伝えておくといった形が、実際にはいちばん確実です。
| 選択肢 | 引き受けられること | 夜間・休日 | 費用 | 事前に必要なこと |
|---|---|---|---|---|
| ケアマネジャー | 情報提供、退院調整、サービスの再開手配 | 事業所の営業時間による | 不要(介護報酬でまかなわれる) | 要支援・要介護の認定と居宅介護支援の契約 |
| 地域包括支援センター | 相談の受け皿、関係機関との調整 | 原則として開所時間内 | 不要 | 入院前に相談し、担当者を決めておく |
| 契約事業者 | 連絡受託、駆けつけ、物品手配など契約した範囲 | 契約内容により対応可能 | 契約による(高額になりうる) | 契約の締結と費用の準備 |

いま何も契約していない場合の手順
入院が決まってから動く場合は、次の順番が現実的です。介護サービスを使っているならケアマネジャーへ、使っていないなら地域包括支援センターへ、まず電話を1本入れてください。
- 担当者に入院の予定と、緊急連絡先を書けない事情を伝える
- 病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)に、同じ事情を先に伝えておく
- 書式の緊急連絡先欄が身元保証人欄と同一の署名になっていないか確認する
- 書ける相手がいなければ、その旨を記録してもらい、急変時の対応を相談する
書くときに間違えやすいこと
本人に断りなく親族や知人の名前を書くのは避けてください。連絡がついた時点で本人が事情を知らず、対応を断られると、病院側は改めて一から連絡先を探すことになります。カルテ上の記録とも食い違い、退院支援が滞ります。
もうひとつは、形だけ遠方の親族を書いてしまう場合です。病院は緊急連絡先を退院支援の相談相手としても扱うため、実際には関与できない人が記載されていると、退院先を決める話し合いが進みません。関われる範囲を正確に伝えるほうが、結果として早く進みます。
よくある質問
緊急連絡先が空欄でも入院できますか
できます。緊急連絡先は法律上の義務ではなく、厚生労働省のガイドラインも、連絡先がない場合はその旨を記録したうえで緊急時の対応について本人の意思決定を支援する、という手順を示しています。あわせて、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは医師法第19条第1項に抵触するという解釈も示されていますので、連絡先がないことだけを理由に断られることはありません。
ケアマネジャーに緊急連絡先を頼むのは迷惑ではありませんか
連絡先を病院に伝えること自体は、運営基準が事業者に求めている対応です。入院時の情報提供には介護報酬上の加算も設けられており、業務として位置づけられています。ただし夜間・休日の呼び出しや金銭の立替は業務の範囲外ですので、どこまでを頼めるかを事前に確認しておいてください。
地域包括支援センターの名前を勝手に書いてもよいですか
事前の相談なしに書くことは避けてください。病院から連絡を受けた側が状況を把握していないと、対応の判断ができず、かえって時間がかかります。入院の予定がわかった段階でセンターに連絡し、担当者を決めてもらったうえで、機関名と担当者名を書いてください。
介護保険を使っておらず、65歳未満の場合はどうすればよいですか
障害福祉サービスを利用している場合は相談支援専門員が、利用していない場合は市町村の障害福祉担当窓口や基幹相談支援センターが相談先になります。生活保護を受給しているなら福祉事務所の担当ケースワーカー、経済的に困窮するおそれがある場合は生活困窮者に対する相談窓口が、ガイドライン上の窓口として挙げられています。まずは市町村の窓口にご相談ください。
友人に頼む場合、何を伝えておけばよいですか
連絡を受ける役割だけを引き受けてもらうこと、費用の保証は含まないことの2点を、本人と友人の双方が理解している状態にしてください。そのうえで、書式の署名欄が保証条項と一体になっていないかを確認し、一体であれば欄を分けてもらうか、保証条項を削除したうえで署名する形を病院に相談します。
まとめ

緊急連絡先に書ける相手は、ケアマネジャー、地域包括支援センター、契約している事業者の3つです。ケアマネジャーの連絡先を病院に伝えることは介護保険の運営基準が想定した正規の流れであり、地域包括支援センターは介護保険を使っていない方の相談先になります。夜間の駆けつけまで必要なら、契約にもとづく事業者が唯一それを約束できます。
いずれも、入院費の連帯保証や遺体の引取りを引き受ける役割ではありません。緊急連絡先と身元保証人は書式のうえで隣り合っていますが、負う責任はまったく別のものです。署名欄が一体になっていないかは、その場で確認する価値があります。
どれにも当てはまらない場合でも、緊急連絡先の欄は空欄のままで手続きは進みます。連絡先がないことを記録したうえで、急変したときにどうしてほしいかを医療者と話し合っておく対応が、ガイドラインの想定する形です。入院が決まってからでも間に合いますが、元気なうちに担当者を1人決めておけば、当日に迷う場面そのものがなくなります。
※本記事は2026年9月時点の法令・通知にもとづいています。書式や運用は医療機関ごとに異なるため、個別の取扱いは入院先の相談窓口にご確認ください。
