公正証書の役割とメリットについて~同性カップルの権利を守るために~
先日、あるドラマを観ていたところ、同性カップルの公正証書利用についての描写が登場しました。2025年11月には東京高等裁判所が同性婚を認めない法律規定は合憲であるという判決を下したことが話題になりましたが、現在の法律上、同性同士の婚姻関係は認められません。
男女間の夫婦に認められる法的な権利義務が発生しないので、不利益を被る場面も出てくるわけですが、それを公正証書を作成することで補完しようというのが目的となります。
現状の法律や制度を変えるために行動することも重要ですが、今ある法制度を利用していかに自分たちの権利利益を守っていくか、という視点も非常に大切です。そこで、同性カップルの公正証書利用について、解説していきたいと思います。
公正証書とは?~なぜただの契約書ではいけないのか~
日本では、民法の基本原則として契約自由の原則があり、誰とどのような契約を締結するか、あるいはしないかというのは誰でも自由に決定することができます。
しかし、契約書はあくまで当事者間の合意を記録する私文書であり、「本当に本人が作成したのか?」「後から内容が反故にされないか?」というリスクがつきまといます。
公正証書は、こうした契約書の作成に公的な機関が関与することで、高い証明力と法的な安心感を与える公文書です。
公正証書の重要な役割
公正証書は、法律の専門家である公証人が、二人の合意内容を法律に従って作成する公文書です。主に以下の役割を持ちます。
①紛争の予防: 法律の専門家が内容をチェックし、後々の争いを防ぎます。
②強力な証明力: 公的な裏付けがあるため、第三者(病院、金融機関、役所など)に対して合意内容を強力に証明できます。
③強制執行力の付与: 特定の公正証書(特に金銭に関するもの)には、裁判所の判決なしに強制執行できる効力を持たせることができます。
同性カップルが作成する公正証書とは?
同性カップルが公正証書を作成する際には、法的に守られない領域を埋め、パートナーシップを盤石にすることが最大の目的となります。
この目的を達成するため、同性カップルが作成すべき公正証書としては主に以下の3つが挙げられます。
①パートナーシップ契約公正証書
これは、事実婚や同性カップルの生活上・財産上のルールを定める、最も基本となる公正証書です。
| 記載内容の例 | 公正証書の必要性 |
| 生活費の分担方法 | お互いの財産形成への貢献を明確化し、将来の財産分与の基礎とします。 |
| 共同財産・固有財産の明確化 | どちらが、いつ、何を所有しているかを明確にし、別れる際のトラブルを避けます。 |
| 死別・離別の際の財産分与の取り決め | 法律婚ではないため自動的な相続権はありませんが、清算ルールを決めておきます。 |
| 日常的な事務代理権の付与 | パートナーが病気などで動けない場合に、日常的な契約(電気・ガスなど)を代行できる権限を与えます。 |
②任意後見契約書
パートナーが認知症などで判断能力を失った時のために、財産管理や介護契約を任せるための契約です。
法的な婚姻関係があれば配偶者が当然に財産管理をしますが、同性カップルにはその権限がありません。この公正証書を作成することで、元気なうちに「パートナーにすべてを任せる」という意思を法的に確定させ、パートナーの生活が途中でストップするのを防ぎます。
③公正証書遺言
同性カップル間で遺言書を作成することは、法的婚姻関係がないため互いに相続権がないという問題を解決するために非常に重要です。
遺言では、全財産、または特定の財産をパートナーに遺贈することを明確に定めます。自筆証書遺言と比べ、公正証書遺言は形式不備で無効になるリスクがなく、公証役場に原本が保管されるため、パートナーに確実に財産を残すための確実な手段となります。
まとめ
同性カップルにおける公正証書の利用は、単なる契約の記録以上の意味を持ちます。それは、法的な枠組みがない中で、「私たちは人生を共にし、お互いの人生に責任を持つ」という意思を、社会や第三者に対して公的に証明する手段です。
特に、医療、介護、財産管理といった、人生の最終局面でパートナーを支え、守るための権利を確保する上で、公正証書は不可欠です。
当事務所では許認可申請を主に取り扱っておりますが、公正証書作成についてもサポート可能ですのでお気軽にご相談ください。
