
同性パートナーは、どれだけ長く一緒に暮らしていても法定相続人になりません。何も準備しないまま一方が亡くなると、財産は親や兄弟姉妹へ渡り、住んでいた家から退去を求められる事態も起こり得ます。
これを避ける方法は、遺言書、生前贈与、生命保険の受取人指定、養子縁組の4つです。確実性、税の負担、関係に与える影響がそれぞれ違うため、財産の内容と将来の希望に応じて選ぶことになります。ひとつに絞る必要はなく、組み合わせたほうが結果は安定します。
※2026年9月現在の情報です。税額の計算や個別の税務判断については税理士にご確認ください。
同性パートナーは、法定相続人にならない

民法は、相続人になる人を順位で定めています。第887条により被相続人の子が第1順位、第889条により直系尊属である父母などが第2順位、兄弟姉妹が第3順位となり、第890条により配偶者は常に相続人となります。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第887条・第889条・第890条
同性婚が認められていない現状では、パートナーはこの順位のいずれにも入りません。同居期間の長さも、生計を同じくしていた事実も、法定相続人であるかどうかの判断には影響しません。
相続人がまったくいない場合に限り、特別縁故者として家庭裁判所に財産の分与を請求する道があります。民法第958条の2は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他特別の縁故があった者の請求により、家庭裁判所が清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができると定めています。
ただしこれは相続人が誰もいない場合の制度で、親や兄弟姉妹がいれば使えません。請求期間も限られているため、これを当てにした準備は現実的ではありません。
財産を渡す4つの方法を比べる

渡し方によって、効き始める時期も、かかる税金の種類も変わります。まず全体像を並べて比べると、自分たちに合う方法が絞り込めます。
| 方法 | 効く時期 | 税金 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 遺言書 | 亡くなった後 | 相続税(2割加算あり) | 親や兄弟姉妹の遺留分が残る場合がある |
| 生前贈与 | 生きているうち | 贈与税 | 税負担が重くなりやすい |
| 生命保険の受取人指定 | 亡くなった後 | 相続税または所得税 | 保険会社ごとに取扱いが異なる |
| 養子縁組 | 縁組の日から | 相続税(2割加算なし) | 親族関係が生じ、解消には離縁が必要 |
このうち、まず取りかかるべきなのは遺言書です。費用が比較的抑えられ、財産の全体を対象にできるため、ほかの方法を選ぶ場合でも土台として作っておく意味があります。
遺言書:もっとも基本になる方法
遺言書があれば、法定相続人でないパートナーにも財産を渡せます。形式は自筆証書遺言と公正証書遺言が中心で、どちらを選ぶかは費用と確実性のバランスで決まります。
自筆証書遺言は自分で書ける代わりに、形式の不備で無効になる危険があります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば、申請1件(遺言書1通)につき3,900円で預けられ、紛失や改ざんを防げます。
この制度には、亡くなった後に指定した人へ遺言書が保管されている旨を通知する指定者通知があります。親族を経由せずにパートナーへ直接知らせられるため、家族との関係が難しい場合に有効な仕組みです。
公正証書遺言は公証人が作成するため形式の不備が生じず、原本が公証役場に保管されます。手数料は目的の価額に応じて定められ、全体の財産が1億円以下のときは13,000円の遺言加算が上乗せされます。
注意が必要なのは遺留分です。民法第1042条第1項により、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められており、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1とされています。親が健在であれば、遺言があってもこの部分の請求を受ける可能性が残ります。
一方、相続人が兄弟姉妹だけの場合、兄弟姉妹に遺留分はありません。親がすでに亡くなっていて兄弟姉妹のみという状況であれば、遺言書だけで財産の全部をパートナーに渡せます。
生前贈与:確実だが、税負担が重くなりやすい
生きているうちに財産を渡してしまう方法です。渡した時点で所有権が移るため、遺留分をめぐる争いに巻き込まれにくく、確実性という点では優れています。
ただし贈与税の負担は小さくありません。配偶者であれば使える居住用不動産の配偶者控除が適用されず、基礎控除の範囲を超える部分には税率の高い贈与税がかかります。不動産の場合は登録免許税と不動産取得税も発生します。
毎年少しずつ渡していく方法もありますが、金額や時期によっては一括の贈与とみなされることがあります。実行する前に、税理士に総額の試算を依頼してください。
また、相続開始前の一定期間内に相続人以外へ行われた贈与は、遺留分を算定するための財産の価額に算入される場合があります。生前贈与だけで遺留分の問題を完全に回避できるわけではない点も押さえておいてください。
生命保険:受取人に指定できるかは保険会社による
生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われるため、原則として遺産分割の対象になりません。受取人に指定できれば、遺言書とは別のルートでまとまった資金を渡せます。
受取人は配偶者や二親等以内の血族に限る運用をしている保険会社が多いものの、近年は同性パートナーを受取人として指定できる取扱いを設ける会社が増えています。自治体のパートナーシップ宣誓制度の受領証や、公正証書で作成したパートナーシップ合意契約書の提出を求められる場合があります。
取扱いは会社ごとに異なるため、加入前に必ず確認してください(※要確認)。すでに加入している保険についても、受取人の変更が可能かどうかを問い合わせる価値があります。
なお、受取人がパートナーの場合、相続税の非課税枠は法定相続人を対象とするものであるため適用されません。税額の見通しは、加入額を決める前に確認しておくと安心です。
養子縁組:相続権は生じるが、影響も大きい
養子縁組をすると、民法第809条により養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します。第1順位の相続人となるため、相続権の問題は根本的に解決します。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第809条
成年同士の養子縁組は届出によって成立し、家庭裁判所の許可は不要です。ただし、民法第792条により養親となる者は20歳に達していることが必要で、第793条により尊属または年長者を養子とすることはできません。年上の側が養親、年下の側が養子となります。
相続税の面では有利になります。相続税法第18条は、一親等の血族及び配偶者以外の者が相続または遺贈により財産を取得した場合に相続税額を2割加算すると定めており、養子は一親等の血族にあたるためこの加算を受けません。
根拠:相続税法(e-Gov法令検索)第18条
一方で、影響の大きさも理解しておく必要があります。戸籍に養子縁組の事実が記載され、互いの親族との間に法律上の関係が生じます。解消したい場合は協議による離縁の手続きが必要で、話がまとまらなければ家庭裁判所の手続きになります。
将来、婚姻に関する制度が変わった場合、養子縁組をしている二人がそのまま婚姻できるかという論点もあります。確定していない部分があることを前提に、慎重に検討してください(※要確認)。
宣誓制度と、あわせて整えておく契約
自治体のパートナーシップ宣誓制度は、二人が人生のパートナーであることを自治体に宣誓し、受領証などの交付を受ける制度です。名古屋市のファミリーシップ制度では、宣誓により宣誓書受領証と宣誓書受領証明カードが無料で交付されます。
愛知県でも2024年4月1日から愛知県ファミリーシップ宣誓制度が始まっており、県内自治体間の連携によって転入・転出時の手続きの負担が軽減されています。
ただし、宣誓制度に相続の効力はありません。受領証があっても法定相続人にはならず、財産を渡すには遺言書などの手当てが別に必要です。宣誓制度が効くのは、病院での面会や、保険会社・不動産会社などが二人の関係を確認する場面になります。
財産の承継とあわせて、次の契約も整えておくと備えが揃います。
- パートナーシップ合意契約公正証書:二人の関係と取り決めを公的な書面にしておくもので、第三者への説明に使えます。
- 任意後見契約:判断能力が低下したときに、パートナーが財産管理や手続きを担えるようにします。
- 死後事務委任契約:葬儀や行政手続き、住居の明渡しをパートナーに託せます。
医療の場面については、同性パートナーは手術同意できる?医療同意権の正しい理解とパートナー救急搬送|「ご家族ですか」への答え方で詳しく扱っています。
よくある質問
遺言書があれば、親の遺留分は気にしなくてよいですか。
親が相続人である場合、遺留分の請求を受ける可能性は残ります。直系尊属のみが相続人であるときの遺留分は3分の1です。生命保険を組み合わせて遺留分に相当する資金を用意しておくと、パートナーが住まいを手放さずに済む形を作りやすくなります。
住んでいる家をパートナーに残したい場合、何を選べばよいですか。
遺言書で不動産を特定して渡す方法が基本になります。名義がどちらにあるか、住宅ローンが残っているかによって取れる手段が変わるため、登記簿と残債の状況を確認したうえで検討してください。賃貸の場合は、契約名義と残置物の扱いもあわせて整理が必要です。
4つのうち、どれかひとつを選ぶとすればどれですか。
遺言書です。費用が比較的抑えられ、財産の全体を対象にでき、いつでも書き直せます。そのうえで、遺留分の見通しや財産の内容に応じて、生命保険や養子縁組を重ねて検討する順番が現実的です。
パートナーシップ宣誓をすれば、相続できるようになりますか。
宣誓制度に相続の効力はありません。受領証は二人の関係を第三者に示す書面として役立ちますが、法定相続人になる効果はないため、遺言書などの準備は別に必要です。
まとめ

同性パートナーは法定相続人にならないため、準備をしなければ財産は親や兄弟姉妹へ渡ります。これを変える方法は、遺言書、生前贈与、生命保険の受取人指定、養子縁組の4つです。
まず遺言書を作り、親が相続人になる場合は遺留分を見込んだ資金を生命保険で用意する、という組み合わせが取り組みやすい形になります。養子縁組は相続権の問題を根本から解決できる一方、戸籍や親族関係への影響が大きいため、二人で十分に話し合ってから決めてください。自治体の宣誓制度は相続には効きませんが、医療や契約の場面で関係を示す書面として併用する価値があります。
