
遺言書で全財産をパートナーに渡すと定めても、親が健在であれば、その遺言どおりにならない場合があります。親には遺留分という最低限の取り分が認められており、遺言で侵害された分を金銭で請求できるためです。
直系尊属のみが相続人となる場合の遺留分は3分の1で、財産の内容によっては住まいを手放さざるを得ない金額になります。請求されるかどうかは親の判断次第ですが、請求された場合に備えて現金を用意しておくかどうかで、残されたパートナーの生活は大きく変わります。
※2026年9月現在の情報です。具体的な金額の計算や税務の判断については、専門家にご確認ください。
直系尊属のみが相続人なら、遺留分は3分の1

民法第1042条第1項は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分を認めており、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1と定めています。子がいない同性カップルの場合、親が健在であれば親が第2順位の相続人となり、この3分の1が問題になります。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第1042条第1項
| 相続人 | 遺留分 | 遺言の効き方 |
|---|---|---|
| 親(直系尊属)のみ | 3分の1 | 3分の2までは確実に渡せる |
| 兄弟姉妹・甥姪のみ | なし | 全部を渡せる |
| 相続人がいない | なし | 全部を渡せる |
親がすでに亡くなっていて兄弟姉妹だけが相続人である場合、兄弟姉妹に遺留分はありません。遺言書を作れば財産の全部をパートナーに渡せるため、親が健在かどうかで備えの重さがまったく変わります。
祖父母が健在で親が亡くなっている場合は、祖父母が直系尊属として相続人になります。この場合も遺留分は3分の1です。
請求されるのは「金銭」であって、不動産そのものではない
民法第1046条第1項は、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができると定めています。2019年7月に施行された改正により、遺留分の請求は金銭債権として整理されました。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第1046条第1項
この改正には、パートナーにとって重要な意味があります。以前の制度では、請求を受けると不動産が共有状態になることがありましたが、現在は金銭で解決する仕組みになったため、住まいの名義そのものが割れることはありません。
その代わり、まとまった現金を用意する必要が生じます。不動産が財産の大半を占めている場合、支払うために売却せざるを得ない事態も起こり得ます。金銭での請求という形式は、現金の準備があるかどうかで結果が分かれる仕組みでもあります。
いくら請求されるのかを計算する
遺留分を算定するための財産の価額は、民法第1043条第1項により、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与した財産の価額を加え、そこから債務の全額を控除した額とされています。
贈与を加える範囲は民法第1044条が定めており、相続開始前の1年間にしたものに限られます。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前のものも算入されます。相続人に対する贈与については、この期間が10年とされています。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第1043条第1項・第1044条

たとえば、相続開始時の財産が3,000万円、債務が0円、直近1年間の贈与がない場合、遺留分を算定するための財産の価額は3,000万円です。親の遺留分はその3分の1にあたる1,000万円となり、全財産をパートナーに遺贈していれば、親は1,000万円の支払いを請求できることになります。
債務を控除する点は見落とされがちです。住宅ローンが残っている場合、その残債は控除されるため、算定の基礎となる価額は不動産の評価額より小さくなります。
請求できる期間は1年で消滅する
民法第1048条は、遺留分侵害額の請求権について、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅するとし、相続開始の時から10年を経過したときも同様としています。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第1048条
親と長く連絡を取っていない場合、相続開始を知るのが遅れることもあります。それでも相続開始から10年で請求権は消滅するため、無期限に不安定な状態が続くわけではありません。
請求は必ずしも裁判で行われるわけではなく、内容証明郵便による通知で権利を行使する形が一般的です。通知を受け取った場合は、期限や金額を自分で判断せず、弁護士に相談してください。
削られないようにするための備え
遺留分そのものをなくすことはできませんが、請求されたときに困らないようにする手立てはあります。財産の構成を変えるか、請求の可能性そのものを小さくするかの2方向です。
- 生命保険で現金を用意する:死亡保険金は受取人固有の財産として扱われ、原則として遺留分を算定するための財産には含まれません。請求に応じるための資金として機能します。ただし、保険金額が遺産全体と比べて著しく大きいなどの事情がある場合、例外的に扱いが変わる可能性があります(※要確認)。
- 養子縁組を検討する:パートナーが養子になれば第1順位の相続人となり、親は相続人ではなくなるため、遺留分の問題そのものが生じません。ただし戸籍や親族関係への影響が大きく、慎重な判断が必要です。
- 遺留分の放棄を求める:民法第1049条第1項により、相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じます。親の協力と家庭裁判所の許可の両方が必要なため、関係が良好な場合に限られる方法です。
- 渡す財産の順序を決めておく:不動産をパートナーに、預貯金の一部を親に、というように遺言で配分しておけば、請求そのものが起きにくくなります。
財産をパートナーに渡す方法の全体像は、同性パートナーに相続権はない|財産を渡す4つの方法にまとめています。遺留分の見通しは、そこで方法を選ぶときの判断材料になります。
遺言書の書き方で差がつく点
遺留分の請求を受ける可能性がある場合でも、遺言書を作らないという選択にはなりません。遺言がなければ財産のすべてが親へ渡るため、3分の2を確実に渡せる遺言があるほうが結果は良くなります。
付言事項として、パートナーとの生活の実情や、財産を渡したい理由を書き添えることもできます。法的な効力はありませんが、請求するかどうかを判断する親に向けたメッセージとして機能する場合があります。
形式は公正証書遺言が安全です。公証人が作成するため形式の不備が生じず、原本が公証役場に保管されます。自筆で書く場合も、法務局の保管制度を使えば紛失や改ざんを防げます。
よくある質問
親が遺留分を請求してこない可能性もありますか。
遺留分は権利であって義務ではないため、請求するかどうかは親の判断です。1年間行使しなければ時効によって消滅します。ただし、請求されない前提で準備を省くと、請求されたときに対応できなくなります。
生前に「相続を放棄する」と親が言っています。有効ですか。
相続の放棄は相続開始後に家庭裁判所へ申述して行うものであり、生前の約束には効力がありません。生前にできるのは遺留分の放棄で、こちらは家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じます。口頭の合意や念書だけでは足りません。
住んでいるマンションがパートナー名義でない場合はどうなりますか。
名義人が亡くなった側であれば、遺言がない限り親へ渡ります。遺言でパートナーに渡す旨を定めたうえで、遺留分に相当する現金を生命保険で用意しておく組み合わせが現実的な備えになります。名義がパートナー側であれば、そもそも相続の対象にはなりません。
遺留分を請求されたら、すぐに支払わなければなりませんか。
金銭の支払いを請求される立場になりますが、裁判所は相当の期限を許与することができるとされています。手元に資金がない場合は、支払いの猶予を含めて弁護士に相談してください。
まとめ

親が健在であれば、遺言で全財産をパートナーに渡すと定めても、3分の1について遺留分侵害額請求を受ける可能性が残ります。請求は金銭で行われるため、不動産の名義が割れることはない代わりに、まとまった現金が必要になります。
それでも遺言を作る価値は変わりません。遺言がなければ全部が親へ渡るのに対し、遺言があれば3分の2は確実にパートナーへ渡せます。そのうえで、生命保険で請求に応じる資金を用意しておけば、住まいを手放さずに済む形を作れます。親がすでに亡くなり兄弟姉妹だけが相続人である場合は遺留分がないため、遺言書だけで全部を渡せます。
