
ひとり暮らしで頼れる家族がいない場合、見守り契約、財産管理委任契約、任意後見契約、死後事務委任契約の4つを組み合わせておくと、元気なうちから亡くなった後までを切れ目なく支えられます。4つはよく一括りにして語られますが、効き始める時期がそれぞれ違うため、どれか1つで代用することはできません。
公証役場に支払う手数料は政令で定められており、2025年10月1日に改正後の額が施行されました。金額の見通しが立てば、無理のない範囲で順番に整えていけます。
※2026年9月現在の情報です。金額は公証役場に支払う手数料であり、受任者への報酬は別途かかります。
4つの契約は、効き始める時期がそれぞれ違う

4つを時系列に並べると、それぞれがどの時期を受け持つのかがはっきりします。空白の期間ができないように組み合わせるのが設計の要点です。
| 契約 | 効き始める時期 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 見守り契約 | 契約した直後から | 定期的な電話や訪問で状況を確認する |
| 財産管理委任契約 | 本人が必要と判断したときから | 入院費の支払い、預金の出し入れ、各種手続き |
| 任意後見契約 | 家庭裁判所が監督人を選任したときから | 判断能力が低下した後の財産管理と身上保護 |
| 死後事務委任契約 | 亡くなった後 | 葬儀、行政への届出、住居の明渡し、遺品整理 |
いちばん見落とされやすいのが、財産管理委任契約と任意後見契約の関係です。判断能力はあるけれど体が思うように動かない時期を財産管理委任契約が受け持ち、判断能力が低下した後を任意後見契約が引き継ぎます。
この2つを続けて設計したものは移行型と呼ばれ、ひとり暮らしの備えとしてよく使われる組み合わせです。
見守り契約:関係を切らさないための土台
受任者が定期的に電話をかけたり訪問したりして、生活の状況を確認する契約です。頻度は月1回の電話と3か月に1回の訪問というように、契約で自由に決められます。
この契約の意味は、安否確認そのものよりも、任意後見を始めるべき時期を見逃さない点にあります。判断能力が低下したことに誰も気づかなければ、せっかく任意後見契約を結んでいても発動されないまま時間が過ぎてしまいます。
入院や施設入所の際に求められる緊急連絡先として、この受任者を記載できる点も実用的な利点です。緊急連絡先を親族に限る法律上の決まりはありません。
財産管理委任契約:判断能力があるうちから使える
入院費の支払い、預金の出し入れ、役所での手続きなどを受任者に任せる契約です。判断能力があることが前提なので、本人の指示にもとづいて動いてもらう形になります。
入院の場面では、この契約書の写しを示すことで費用の支払いの道筋を説明できます。身元保証人を立てられない場合でも、支払いが確保されていれば受け入れが進みやすくなります。
公正証書にしておくと、金融機関や医療機関での説明がしやすくなります。私文書でも契約自体は有効ですが、窓口で受け付けてもらえるかどうかは相手方の運用によります。
入院時の対応については入院時に身元保証人がいない|断られたときの対処法で詳しく扱っています。
任意後見契約:家庭裁判所が監督人を選んで初めて効力を持つ

任意後見契約は、結んだ時点では効力が生じません。任意後見契約に関する法律第4条第1項は、契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときに、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると定めています。
根拠:任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)第4条第1項
選任された監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告します。自分で選んだ人に任せつつ、第三者の目が入る仕組みです。
根拠:任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)第7条
契約は法務省令で定める様式の公正証書で作る必要があり、私文書では効力が生じません。登記されるため、後から誰かが法定後見の申立てをしても、家庭裁判所は本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り後見開始の審判等をすることになります。
任意後見監督人が選任された後は、監督人への報酬が発生します。金額は家庭裁判所が決定するため、契約の段階では確定しません。
死後事務委任契約:亡くなった後の手続きを託す
葬儀、火葬、行政への届出、住居の明渡し、公共料金の解約、遺品整理といった事務を、生前に受任者へ委任しておく契約です。
託す内容を具体的に列挙しておくことが要点になります。「一切の死後事務」といった包括的な書き方では、受任者が実際に動くときに範囲がわからず、関係先から断られることがあります。
費用の扱いも決めておく必要があります。預け金を伴う契約になることが多いため、誰がどこで管理するのか、余った場合にどう精算するのかを契約書の条文で確認してください。
この契約では財産の行き先までは決められません。誰に財産を渡すかは遺言書で定める必要があるため、セットで準備してください。
公証役場に支払う手数料
法律行為に関する公正証書の手数料は目的の価額に応じて定められており、目的の価額を算定することができないときは、例外的な場合を除いて500万円とみなされます。その場合の手数料は13,000円です。
根拠:日本公証人連合会「手数料」(公証人手数料令、令和7年政令第263号改正、令和7年10月1日施行)
任意後見契約公正証書の手数料は1契約につき13,000円で、これに収入印紙代2,600円、法務局への登記嘱託手数料1,600円、書留郵便料、正本・謄本の交付手数料が加わります。
根拠:日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか?」
| 契約 | 公証役場の手数料 |
|---|---|
| 見守り契約 | 13,000円 |
| 財産管理委任契約 | 13,000円 |
| 任意後見契約(印紙・登記嘱託を含む) | 17,200円 |
| 死後事務委任契約 | 13,000円 |
| 合計 | 56,200円 |
これに正本・謄本の交付手数料が加わります。書面での交付は1枚につき300円、電磁的記録での交付は1件につき2,500円です。証書を紙に出力した枚数が3枚を超えるときは、超える1枚ごとに300円が加算されます。
複数の契約を1通の公正証書にまとめられるかどうかは公証役場の運用によるため、見積もりの段階で確認してください。公証人に出張してもらう場合は、日当20,000円(4時間以内は10,000円)と交通費実費が加わり、病床での作成では手数料が50パーセント加算されます。
遺言書を公正証書で作る場合は、財産の価額に応じた手数料に遺言加算13,000円(全体の財産が1億円以下のとき)が上乗せされます。自筆で書く場合は、法務局の保管制度が申請1件につき3,900円で利用できます。
どれから作るか
4つを一度に整える必要はありません。今の状況によって、効果が大きいものから始めてください。
- 入院や施設入所が近い:財産管理委任契約を先に作り、費用の支払いの道筋を確保します。
- 賃貸で暮らしている:死後事務委任契約を優先し、住居の明渡しと遺品整理を任せられる状態にします。
- 持ち家やまとまった財産がある:遺言書を先に作ります。相続人がいない場合、遺言がなければ財産は最終的に国庫に帰属します。
- 当面の心配はないが備えたい:見守り契約から始め、関係を作りながら任意後見契約へ進みます。
いずれの契約も、判断能力が十分にあるうちでなければ結べません。迷っている間に選択肢が狭まるため、順番を決めて一つずつ進めるのが確実です。
身元保証人を求められる場面全般については、身元保証人がいない人の総合ガイド|4つの場面と備えにまとめています。
よくある質問
受任者を頼める人がいません。
友人や知人のほか、専門職に依頼する方法があります。まずは市区町村の地域包括支援センターや社会福祉協議会に相談すると、地域で利用できる選択肢がわかります。社会福祉協議会の日常生活自立支援事業は、利用料が比較的低く抑えられています。
見守り契約は公正証書にしないといけませんか。
法律上の決まりはなく、私文書でも有効です。ただし、任意後見契約を公正証書で作る際に一緒に作成すると、内容の整合が取りやすくなります。
任意後見契約を結んだ後に、受任者を変えられますか。
任意後見監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面によって契約を解除できます。選任された後の解除には、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。
費用を抑えて備えたい場合、最低限どれを作るべきですか。
賃貸で暮らしているなら死後事務委任契約、財産があるなら遺言書が優先度の高い選択になります。自筆証書遺言の保管制度は3,900円で利用できるため、まずここから始める方法もあります。
まとめ

見守り契約は契約直後から、財産管理委任契約は本人が必要と判断したときから、任意後見契約は家庭裁判所が監督人を選任したときから、死後事務委任契約は亡くなった後から、それぞれ効力を持ちます。時期が重ならないため、4つを組み合わせて初めて切れ目のない備えになります。
公証役場に支払う手数料は、4つ合わせておよそ56,200円が目安です。任意後見契約だけは公正証書でなければ効力が生じないため、この部分は省略できません。いずれも判断能力が十分にあるうちでなければ結べないので、入院の予定があるなら財産管理委任契約から、賃貸暮らしなら死後事務委任契約から、順に整えていってください。
