
入院の手続きで身元保証人を求められ、頼める人がいないという理由で入院を断られた場合、その対応は医師法に抵触します。厚生労働省は2018年に通知を出し、入院による加療が必要であるにもかかわらず身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは医師法第19条第1項に抵触すると明示しました。
ただし通知があっても、病院の窓口では書式どおりに署名を求められるのが実際のところです。病院が保証人欄で求めている中身は費用の支払いや緊急時の連絡など複数に分かれており、ひとつずつ別の手段で埋められます。
※2026年9月現在の情報です。書式や運用は医療機関によって異なるため、具体的な条項は書面でご確認ください。
身元保証人がいないことだけを理由にした入院拒否は、医師法に抵触する
医師法第19条第1項は、診療に従事する医師は診察治療の求めがあった場合には正当な事由がなければこれを拒んではならないと定めています。この「正当な事由」は、医師の不在または病気等により事実上診療が不可能な場合に限られており、保証人の有無は含まれません。
厚生労働省の通知は、入院による加療が必要であるにもかかわらず、入院に際し身元保証人等がいないことのみを理由に医師が患者の入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触すると述べています。あわせて都道府県に対し、そうした事例の情報に接した際には当該医療機関へ適切な指導を行うよう求めています。
根拠:厚生労働省医政局医事課長通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(PDF)(医政医発0427第2号、平成30年4月27日)
根拠:医師法(e-Gov法令検索)第19条第1項
ここで押さえておきたいのは、通知が否定しているのが「いないことのみを理由とする拒否」だという点です。病院が保証人を立てるよう依頼すること自体が禁じられているわけではありません。求めに応じられないときに、それだけを理由に入院を断ることが認められないという整理になります。
病院が身元保証人欄で求めているのは、4つの別々の中身
身元保証人という言葉を定義した法律はなく、その中身は各医療機関が用意した書式によって決まります。全国の医療機関を対象とした調査では、身元保証人等に求める役割として「入院費の支払い」が87.8%、「緊急の連絡先」が84.9%、「債務(入院費、損害賠償等)の保証」が81.0%、「本人の身柄引取り」が67.2%、「遺体・遺品の引取り」が55.3%という結果が出ています。

根拠:厚生労働科学研究「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」平成29年度総括・分担研究報告書(PDF)(研究代表者・山縣然太朗、身元保証人に関する調査 n=839)
| 求められる中身 | 病院側の心配ごと | 金銭負担 |
|---|---|---|
| 入院費の支払い・債務の保証 | 治療費が回収できない | 大きい |
| 緊急の連絡先 | 容態が急変したときに連絡できない | なし |
| 身柄の引取り | 退院後の行き先が決まらない | なし |
| 遺体・遺品の引取り | 亡くなった後の対応者がいない | 実費のみ |
金銭的な負担がいちばん重いのは費用の保証の部分ですが、頼まれた側がためらう理由の多くは遺体の引取りにあります。書式の内容や条項ごとの意味については、身元保証人とは何を保証するのか|入院・入所の4つの役割で詳しく分解しています。
身元保証人欄を、役割ごとに分けて埋める

4つの中身は性質が違うので、一人にまとめて引き受けてもらう必要はありません。窓口で「保証人はいませんが、こう埋めます」と具体的に示せると、話は一気に進みやすくなります。
| 求められるもの | 代わりになる手段 | 示せる書類 |
|---|---|---|
| 入院費の支払い | 財産管理委任契約、口座振替の設定 | 契約書の写し、振替依頼書 |
| 債務の保証 | 入院時の預り金、保証金の差入れ | 預り金の領収書 |
| 緊急の連絡先 | 見守り契約、担当ケアマネジャー、任意後見受任者 | 契約書の写し、連絡先の書面 |
| 身柄・遺体の引取り | 死後事務委任契約 | 公正証書の写し |
このうち、入院の場面でいちばん効くのは費用の手当てです。病院が最も心配しているのは治療費の回収なので、口座振替の設定や入院時の預り金で支払いの道筋が見えれば、保証人欄が空欄でも受け入れられる例は珍しくありません。
緊急連絡先については、親族でなければならないという法律上の決まりはありません。連絡先として何を書けばよいかは、緊急連絡先がいない入院|誰を書けばいいか3つの答えで整理しています。
国が示している、身寄りがない人への病院側の対応
厚生労働省は2019年、身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインを公表しました。身寄りがない人に加え、家族や親類へ連絡がつかない状況にある人、家族の支援が得られない人も対象に含めたうえで、本人の意思を可能な限り確認し、確認が困難な場合は本人にとっての最善の利益を考慮して医療機関が方針を決められる進め方を示しています。
根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(PDF)(2019年5月)
このガイドラインは、家族の同意が得られないために必要な医療が提供されない事態を防ぐことを目的としています。窓口での相談では、通知とガイドラインの両方の名称を挙げると、担当者が院内で確認しやすくなります。
なお、手術への同意は本人の一身専属的な権利であり、家族に同意権を認めた規定は法律上ありません。身元保証人を立てれば医療同意まで代わってもらえるという理解は誤りで、保証人の有無と同意の問題は切り分けて考える必要があります。
入院が決まる前にできる備え
入院は急に決まることが多く、その場で契約を整えるのは困難です。時間に余裕があるうちに、次の3つを進めておくと当日の負担が大きく変わります。
- 費用の支払い方法を決めておく:入院費が口座から自動的に引き落とされる設定にするか、財産管理委任契約を結んでおきます。
- 連絡が取れる先を作っておく:地域包括支援センターへの相談、見守り契約、担当ケアマネジャーとの関係づくりのいずれかを進めます。
- 亡くなった後の手続きを託しておく:死後事務委任契約を公正証書で作成しておくと、遺体・遺品の引取りの欄に対応できます。
これらの契約はいずれも、判断能力が十分にあるうちでなければ結べません。元気なうちに整えておけるかどうかが、入院時の選択肢を左右します。全体像は身元保証人がいない人の総合ガイド|4つの場面と備えにまとめています。
それでも断られたときの相談先

説明しても入院を認めてもらえない場合は、院内の医療相談室や地域連携室に相談してください。医療ソーシャルワーカーが配置されていれば、費用面や退院後の行き先を含めて調整してもらえます。
院内で解決しないときは、都道府県や保健所設置市が設けている医療安全支援センターが相談先になります。通知は都道府県に対し、身元保証人等がいないことを理由に入院を拒否する事例の情報に接した際には、当該医療機関へ適切な指導を行うよう求めています。
生活費や医療費の支払いそのものが難しい場合は、市区町村の福祉窓口で高額療養費制度や限度額適用認定証の手続きを確認してください。支払いの見通しが立つことが、受け入れの判断につながる場面もあります。
よくある質問
病院に通知の内容を伝えるとき、どう切り出せばよいですか。
「身元保証人を立てられませんが、平成30年4月27日の厚生労働省の通知では、いないことのみを理由とした入院拒否は医師法第19条第1項に抵触するとされています」と、通知の日付と番号を添えて伝えてください。そのうえで、費用の支払い方法と連絡先をどう確保するかを具体的に示すと、対応が前に進みます。
保証人欄を空欄のまま提出してもよいのでしょうか。
空欄のままでは受け付けられないことが多いため、埋められる欄だけを埋めたうえで、埋められない欄について書面で事情を説明する方法が現実的です。連絡先だけでも記入でき、費用の支払い方法を示せれば、病院側が内部で判断しやすくなります。
成年後見人がいれば、身元保証人の代わりになりますか。
成年後見人は財産管理と身上保護を担いますが、身元保証人になることや医療同意を行うことは職務に含まれていません。費用の支払いについては後見人が対応できるため、保証人欄のうち金銭に関する部分は埋められます。ただし、身柄や遺体の引取りまでは職務の範囲外となります。
民間の身元保証サービスを使えば解決しますか。
契約すれば保証人欄に対応できますが、費用の負担は小さくありません。総務省行政評価局の調査では、利用開始時に必要な額が少なくとも100万円以上という費用例が示されています。契約前に、預託金の管理方法と解約時の返金の扱いを契約書で確認してください。
まとめ
入院による加療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を断ることは、医師法第19条第1項に抵触します。窓口で求められたときは、通知の日付と番号を挙げたうえで、費用の支払い方法と緊急時の連絡先をどう確保するかを具体的に示してください。
保証人欄が求めている中身は、費用の支払い、債務の保証、緊急の連絡先、身柄や遺体の引取りの4つに分かれます。財産管理委任契約、口座振替、見守り契約、死後事務委任契約を組み合わせれば、頼める人がいなくても4つの欄を埋められます。どれも判断能力があるうちに準備しておくことで、いざというときに慌てずに済みます。
