
身元保証人を求められる場面は、就職、賃貸住宅の契約、入院、介護施設への入所の4つに分かれます。同じ「身元保証人」という言葉が使われていても、根拠となる法律、引き受ける人の責任の重さ、立てられないときの対処はそれぞれ違います。
入院と施設入所については、身元保証人がいないことだけを理由に断ることを国が明確に否定しており、頼める人がいなくても受け入れを求められる立場にあります。就職と賃貸では、保証人を個人に頼らずに済ませる方法が制度として用意されています。場面ごとに何が使えるかを知っておけば、頼れる家族がいなくても生活の選択肢は狭まりません。
※2026年9月現在の情報です。個別の書式や運用は機関ごとに異なるため、実際の書面は窓口でご確認ください。
身元保証人を求められる場面は、大きく4つに分かれる
「身元保証人」という言葉には統一された定義がありません。就職の場面で使われる身元保証には専用の法律がある一方、入院や施設入所の身元保証人には、そもそも根拠となる法令が存在しません。同じ呼び名でも中身が違うため、4つの場面を分けて考える必要があります。
場面ごとに、求められる理由と断られたときの対処は次のように整理できます。
| 場面 | よく使われる呼び名 | 法的な位置づけ | 立てられないとき |
|---|---|---|---|
| 就職・転職 | 身元保証書、身元保証人 | 身元保証ニ関スル法律で責任が限定される | 提出を法律で義務づけられてはいない |
| 賃貸住宅 | 連帯保証人、緊急連絡先 | 民法上の保証契約(法律に設置義務はない) | 家賃債務保証会社やURで代替できる |
| 入院 | 身元保証人、身元引受人 | 根拠となる法令なし | いないことのみを理由とした拒否は医師法違反 |
| 介護施設の入所 | 身元引受人、連帯保証人 | 根拠となる法令なし | いないことのみを理由とした拒否は不適切 |
いちばん誤解されやすいのは、入院と施設入所です。この2つは法律に根拠がないにもかかわらず、断られると生命や生活に直結するため、国が通知を出して対応を示しています。逆に就職の身元保証は法律があるぶん、保証人の責任に上限がかかる仕組みになっています。

入院:身元保証人がいないことだけを理由に断ることはできない
入院に際して身元保証人等がいないことのみを理由に医師が入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触します。同項は、診療に従事する医師は診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければこれを拒んではならないと定めており、ここでいう正当な事由は、医師の不在や病気などで事実上診療が不可能な場合に限られます。
根拠:厚生労働省医政局医事課長通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(PDF)(医政医発0427第2号、平成30年4月27日)
根拠:医師法(e-Gov法令検索)第19条第1項
厚生労働省は2019年に、身寄りがない人の入院と医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインも公表しています。家族に連絡がつかない人や家族の支援が得られない人も対象に含め、本人の意思を確認しながら医療機関が方針を決められる進め方を示した内容です。窓口で説明する際に、このガイドラインの名前を挙げると話が通りやすくなります。
根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(PDF)(2019年5月)
病院が身元保証人欄で求めている中身は、費用の連帯保証、損害賠償の保証、緊急連絡先、身柄や遺体の引取りという4つに分かれます。この4つは性質が違うので、まとめて引き受けられなくても、ひとつずつ別の手段で埋められます。詳しくは身元保証人とは何を保証するのか|入院・入所の4つの役割で整理しています。
介護施設の入所:法令に身元保証人を求める規定はない
介護保険施設に関する法令にも、身元保証人等を求める規定は置かれていません。厚生労働省は、入院・入所希望者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を拒否する正当な理由には該当しないとしたうえで、身元保証人等がいないことのみを理由に入所を拒んだり退所を求めたりする取扱いが行われないよう、都道府県等に指導・監督を求めています。
根拠:厚生労働省老健局通知「市町村や地域包括支援センターにおける身元保証等高齢者サポート事業に関する相談への対応について」(老高発第830001号・老振発第830002号、平成30年8月30日)
とはいえ、施設の申込書に署名欄がある以上、窓口で空欄のまま進めるのは簡単ではありません。入所の相談では、通知の内容を伝えるとともに、緊急時の連絡先と費用の支払い方法をどう確保するかを具体的に示すほうが話が進みます。後述する財産管理委任契約や死後事務委任契約を結んでいれば、その契約書を示すことで施設側の不安の多くは解消されます。
就職・転職:身元保証書は法律で責任に上限がかかっている
採用時に提出を求められる身元保証書は、従業員が会社に損害を与えた場合に保証人が賠償を約束する契約です。この契約には身元保証ニ関スル法律という専用の法律があり、保証人の責任が過大にならないよう複数の制限が設けられています。
期間を定めない身元保証契約の効力は成立の日から3年間で、商工業見習者の場合は5年です。期間を定める場合も5年を超えることはできず、これより長い期間を定めたときは5年に短縮されます。更新は可能ですが、更新のときから5年を超えることはできません。
根拠:身元保証ニ関スル法律(e-Gov法令検索)第1条・第2条
さらに2020年4月に施行された改正民法により、個人が保証人となる根保証契約は極度額、つまり負担の上限額を定めなければ効力を生じないことになりました。身元保証書に金額の記載がまったくない場合、その保証は無効と扱われる余地があります。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第465条の2
提出そのものを義務づける法律はないため、頼める人がいない場合は採用担当者に事情を伝えて相談する余地があります。具体的な進め方は身元保証書を転職で求められた|提出義務はあるかで扱っています。
賃貸住宅:保証人から家賃債務保証会社への置き換えが進んでいる
賃貸住宅の契約で連帯保証人を立てられない場合、家賃債務保証会社を利用する方法が一般的になっています。国土交通省は2017年に家賃債務保証業者の登録制度を設け、純資産額が1,000万円以上あることや、肩代わりした家賃の請求方法が適切であることなどの要件を満たす業者を登録し、一覧を公表しています。
保証人だけでなく緊急連絡先も求められる点が、単身者にとってのもうひとつの壁になります。2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法では、緊急連絡先を親族などの個人に限定しないことを認定の基準に含めた認定家賃債務保証業者の制度が始まりました。保証人がいない人の入居を想定した仕組みが、制度として整い始めています。
選択肢の全体像は保証人なしで賃貸は借りられる|2026年の選択肢、制度の中身は改正住宅セーフティネット法|2025年10月の変更点にまとめています。
頼める人がいないときに備えとなる4つの契約
4つの場面に共通しているのは、機関側が「判断できなくなったとき」と「亡くなった後」を心配しているという点です。身元保証人という一人の個人にまとめて背負わせる代わりに、契約を分けて備えると、同じ不安を制度的に解消できます。

| 契約 | 備える時期 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 見守り契約 | 元気なうち | 定期的な連絡・訪問で状況を確認する | 月額数千円程度 |
| 財産管理委任契約 | 体が不自由になったとき | 入院費の支払いなど財産の管理を任せる | 公正証書作成で数万円程度 |
| 任意後見契約 | 判断能力が低下したとき | あらかじめ選んだ人に後見事務を任せる | 公正証書作成で数万円程度 |
| 死後事務委任契約 | 亡くなった後 | 葬儀、行政への届出、遺品整理などを託す | 内容により数十万円程度 |
任意後見契約は公正証書で作成することが法律で義務づけられており、口頭の約束や私文書では効力が生じません。費用はいずれも内容や依頼先によって幅があるため、上の金額はあくまで目安として捉えてください。
根拠:任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)第3条
なお、財産を誰に引き継ぐかを決めておきたい場合は、これらとは別に遺言書が必要になります。相続人がいない状態で遺言もないと、最終的に財産は国庫に帰属します。世話になった人や団体に渡したい希望があるなら、遺言書を残しておく意味は大きくなります。
民間の身元保証サービスを検討するときに確認すること
身元保証、日常生活支援、死後事務をまとめて引き受ける民間サービスも増えています。総務省行政評価局の調査では、協力が得られた事業者の資料をもとにした費用例として、サービスの利用開始時に必要な額が少なくとも100万円以上という結果が示されました。契約前に総額と内訳を確認しておく必要があります。
根拠:総務省行政評価局「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査 結果報告書」(PDF)(令和5年8月)
この調査では、事業を直接規律・監督する法令や制度が存在せず、所管する行政機関もないことも指摘されました。これを受けて2024年6月、内閣官房と関係府省庁が高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを公表し、契約内容の説明や預託金の管理について事業者が留意すべき事項を示しています。
根拠:内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(PDF)(令和6年6月)
検討するときは、預託金がどこに保管され誰が管理するのか、解約したときの返金の扱いはどうなるのか、提供されるサービスの範囲はどこまでかという3点を、契約書の条文で確かめてください。パンフレットの説明と契約書の記載が一致しているかどうかも、あわせて確認しておくと安心です。
何から始めればよいか
すべてを一度に整える必要はありません。差し迫った場面があるかどうかで、着手する順番は変わります。
- 入院や入所が近い場合:まず費用の支払い方法を確保します。財産管理委任契約か、口座から施設利用料を引き落とす設定を先に整えます。
- 緊急連絡先を求められている場合:見守り契約や地域包括支援センターへの相談で、連絡が取れる先を作ります。
- 当面の予定がない場合:任意後見契約と死後事務委任契約を公正証書で作成し、あわせて遺言書を残します。
判断能力が十分にあるうちでなければ、任意後見契約も死後事務委任契約も結べません。元気なうちに準備できるかどうかが分かれ目になるため、早めに動いておくほど選べる手段は多くなります。
公的な相談先としては、市区町村の地域包括支援センターや社会福祉協議会があります。日常的な金銭管理の支援については、社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業を利用できる場合もあるため、費用を抑えたいときは最初に相談してみてください。
よくある質問
身元保証人がいないと入院できないと言われました。従うしかないのでしょうか。
入院による加療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を断ることは、医師法第19条第1項に抵触するとされています。厚生労働省の通知の名称と番号を挙げて相談し、それでも解決しない場合は、都道府県の医療安全相談窓口や保健所に相談してください。
身元保証人と連帯保証人と緊急連絡先は、何が違うのですか。
連帯保証人は費用の支払いを本人と同じ立場で負う人、緊急連絡先は連絡を受けるだけで支払義務を負わない人です。身元保証人はこの両方に加えて、身柄や遺体の引取りまで含む幅広い呼び名として使われています。署名する前に、書面のどの義務を引き受けるのかを確認してください。
遠方の親族に頼めそうですが、負担をかけたくありません。
緊急連絡先だけを親族に頼み、費用の支払いは財産管理委任契約で、亡くなった後の手続きは死後事務委任契約で、というように役割を分けて配分できます。親族に頼む範囲を連絡だけに限定すれば、引き受けてもらいやすくなります。
費用をかけずに備える方法はありますか。
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業は、利用料が比較的低く抑えられています。また、任意後見契約の公正証書作成にかかる実費自体は数万円程度で、支援を受ける段階になるまで後見人への報酬は発生しません。まずは地域包括支援センターで、利用できる公的サービスを確認することをおすすめします。
まとめ

身元保証人を求められる4つの場面のうち、入院と施設入所については、いないことだけを理由に断ることを国が明確に否定しています。就職の身元保証書は身元保証ニ関スル法律と民法によって責任に上限がかかり、賃貸住宅は家賃債務保証会社と2025年10月施行の新しい制度で、保証人を立てずに契約する道が広がりました。
頼める人がいない場合でも、見守り契約、財産管理委任契約、任意後見契約、死後事務委任契約を組み合わせれば、機関側が心配している部分は制度的に埋められます。判断能力があるうちでなければ結べない契約が多いため、早めに準備を始めておくことが、選択肢を広げる一番の近道になります。
