
日本の法律には「絶縁」という制度がなく、実の親子関係を届出によって解消する方法はありません。親の戸籍から抜けても、名字を変えても、親子であるという事実そのものは戸籍に残り続けます。
それでも、戸籍を分ける、氏を変更する、相続を放棄する、住所を知られないようにするといった手段は用意されており、組み合わせれば生活上の関わりはかなりの程度まで断てます。できないことを正しく知ったうえで、できることを積み上げるのが現実的な進め方になります。
※2026年9月現在の情報です。家庭裁判所の手続きは個別の事情によって判断が分かれるため、具体的な見通しは管轄の家庭裁判所や専門家にご確認ください。
法律に「絶縁」という制度はない

民法には、親子関係を当事者の意思で終わらせる規定が置かれていません。縁組を解消する離縁の手続きがあるのは養子縁組の場合だけで、実の親子には適用されません。血縁にもとづく親子関係は、届出や裁判によって消せない性質のものとして扱われています。
例外的に実方との親族関係が終了する制度として、特別養子縁組があります。民法第817条の9は、養子と実方の父母及びその血族との親族関係は特別養子縁組によって終了すると定めていますが、これは原則として15歳未満の子を対象とした制度であり、成人が親との関係を断つために使えるものではありません。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第817条の9
| できないこと | できること |
|---|---|
| 届出で実の親子関係を解消する | 分籍して自分だけの戸籍を作る |
| 戸籍から親子関係の記載を消す | 家庭裁判所の許可を得て氏を変更する |
| 扶養義務そのものをなくす | 相続を放棄して借金を引き継がない |
| 親に相続人の地位を失わせる | 住民票や戸籍の附票の閲覧を制限する |
ここで押さえておきたいのは、法律上の関係が残ることと、日常的に関わらなければならないことは別だという点です。連絡を取る義務も、会う義務も、法律には定められていません。
分籍をしても、親子関係の記載は消えない

分籍は、親の戸籍から抜けて自分を筆頭者とする新しい戸籍を作る手続きです。戸籍法第21条は、成年に達した者は分籍をすることができると定めており、分籍の届出があったときは新戸籍を編製するとしています。ただし、戸籍の筆頭に記載した者とその配偶者は分籍できません。
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第21条
分籍をすると、自分の戸籍謄本に親の氏名は記載されなくなります。就職や結婚の手続きで戸籍を提出する場面では、親の情報が相手の目に触れにくくなるため、この点に実用的な意味があります。
一方で、新しい戸籍には従前の戸籍の情報が記載されるため、そこをたどれば親の戸籍にたどり着けます。また、分籍しても相続人の地位や扶養義務は変わりません。親子関係そのものを消す手続きではないことを理解したうえで使う必要があります。
手続きは、本籍地または住所地の市区町村役場に分籍届を提出して行います。親の同意は不要で、本人の意思だけで届け出られます。
氏を変えるには、家庭裁判所の許可がいる
名字を変えたい場合は、家庭裁判所の許可を得たうえで届け出る必要があります。戸籍法第107条第1項は、やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者が家庭裁判所の許可を得て届け出なければならないと定めています。
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第107条第1項
「やむを得ない事由」は厳格に判断されており、単に親と同じ名字が嫌だという理由だけでは許可されにくい運用になっています。氏を変更するには、まず分籍によって自分が戸籍の筆頭者になっておく必要がある点にも注意してください。
なお、日常生活で使う名前だけを変えたい場合は、通称名の使用という方法もあります。住民票への通称の記載は原則として外国人住民が対象ですが、職場や取引先での呼称は本人の申し出で変えられる場合があります。
扶養義務は残る。ただし内容には幅がある
民法第877条第1項は、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めています。親子関係が続く以上、この義務も残ります。届出や合意によって義務そのものをなくすことはできません。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第877条第1項
ただし、成人の親子間の扶養は生活扶助義務と呼ばれ、自分の生活を犠牲にしてまで援助する必要はないとされています。扶養の程度や方法について話がまとまらないときは、家庭裁判所が当事者の資力その他一切の事情を考慮して定める仕組みです。
親の介護費用や施設費用の請求を受けた場合も、自分の収入と生活を維持したうえで余力がある範囲が基準になります。生活保護の申請の際に行われる扶養照会についても、回答が義務づけられているわけではありません。
相続は放棄できる。期限は3か月
親が亡くなったときに借金を引き継ぎたくない場合は、相続放棄という手続きがあります。民法第915条第1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純若しくは限定の承認または放棄をしなければならないと定めています。
放棄は家庭裁判所への申述によって行います。民法第938条が、相続の放棄をしようとする者はその旨を家庭裁判所に申述しなければならないと定めているため、親族間で「放棄する」と伝えただけでは効力が生じません。
根拠:民法(e-Gov法令検索)第915条第1項・第938条
3か月という期間は、利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所で伸長できます。親と長く連絡を取っていない場合、死亡を知るのが遅れることもあるため、起算点が「知った時」である点は覚えておいてください。
注意したいのは、相続財産を処分してしまうと放棄できなくなる点です。親の預金を引き出したり、遺品を売却したりすると単純承認とみなされる場合があるため、判断がつくまでは財産に手をつけないでください。
住所を知られたくないときは、閲覧制限の申出ができる
親から住所を知られたくない場合は、住民基本台帳事務における支援措置という制度があります。配偶者からの暴力、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害を市区町村に申し出て、支援の必要性が確認されると、相手方からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付等が制限されます。
申出の方法と必要な準備は、住民票の閲覧制限|親に住所を知られない支援措置で詳しく扱っています。転居の前に確認しておくと、手続きの順番を間違えずに済みます。
関わらずに暮らすために、書面で備えておく
法律上の親子関係が残るために起きる問題は、緊急時に集中します。入院したときに病院が親へ連絡してしまう、亡くなった後の手続きを親が行うことになる、といった場面です。
これらは、事前に書面を整えておくことで多くを避けられます。緊急連絡先を誰にするか、医療に関する意思をどう残すか、亡くなった後の事務を誰に託すかを決めておく方法は、親と絶縁するとき整える4つの書類|備え方にまとめました。
入院の場面に絞った対処は、入院時に親へ連絡させない方法|事前の意思表示で扱っています。頼れる家族がいない前提での備え全般は、身元保証人がいない人の総合ガイド|4つの場面と備えもあわせてご覧ください。
よくある質問
親子関係を裁判で解消することはできますか。
実の親子関係については、解消を求める手続きが法律に用意されていません。親子関係不存在確認の訴えは、そもそも血縁上の親子でない場合に用いる手続きであり、関係を断つために使えるものではありません。
分籍すると、親は私の戸籍を取れなくなりますか。
分籍後も親子関係は続くため、親は自分の戸籍をたどって子の戸籍を請求できる立場に変わりはありません。住所を知られたくない場合は、戸籍ではなく住民票と戸籍の附票について支援措置を申し出る必要があります。
親の介護費用を請求されたら、支払わなければなりませんか。
直系血族の扶養義務は残りますが、成人の親子間では自分の生活を維持したうえでの余力が基準になります。金額や方法について話がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停で決めることになります。請求書が届いたからといって、内容を確認せずに支払う必要はありません。
私が亡くなったとき、財産は親に渡ってしまいますか。
子がいない場合、直系尊属である親は相続人になります。親に渡したくない場合は、遺言書で別の人や団体に渡す旨を定めておく必要があります。親には遺留分があるため、全額を完全に渡さないことは難しいものの、遺言があるかないかで結果は大きく変わります。
まとめ

法律に絶縁という制度はなく、実の親子関係は届出でも裁判でも解消できません。戸籍から親子関係の記載が消えることもなく、扶養義務と相続人の地位も残ります。
その一方で、分籍によって自分だけの戸籍を作り、家庭裁判所の許可を得て氏を変更し、相続を放棄し、住民票の閲覧を制限するという手段はそれぞれ用意されています。さらに緊急連絡先や医療の意思、死後の事務について書面で備えておけば、法律上の関係が残っていても、生活のなかで親と関わらずに暮らす道筋は作れます。
