身寄りがなくても入院できる|厚労省ガイドライン

入院の手続きで身元保証人の記入を求められ、頼める人が思い当たらないとき、入院そのものを断られるのではないかと心配になります。けれども、身元保証人がいないことだけを理由に入院を断ることは認められていません。

厚生労働省は医療機関向けにガイドラインを示し、身元保証人に期待されてきた役割を機能ごとに分け、それぞれについて代わりの手立てを考えるよう求めています。書かれている内容は病院側の対応の指針ですが、患者の側から読むと、何を心配しなくてよくて、何を自分で用意しておけばよいのかがはっきりします。

目次

身元保証人がいないことだけを理由に入院は断れない

医師には、診察の求めがあったときに正当な事由がなければ拒めないという義務があります。これを応招義務といい、医師法第19条第1項に定められています。

根拠:医師法(e-Gov 法令検索)

この「正当な事由」に身元保証人の不在は含まれません。厚生労働省は2018年4月27日付の通知で、入院が医療上必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒むことは医師法第19条第1項に違反すると示しています。

根拠:厚生労働省医政局医事課長通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関が入院を拒否することについて」(PDF)(2018年4月27日、医政医発0427第2号)

都道府県にはこの通知が届いており、違反している医療機関には指導が行われることになっています。入院を断られた場合は、その理由が身元保証人の不在だけなのかを落ち着いて確かめるとよいでしょう。ほかに医療上の理由があるなら、それは別の話として説明を受けられます。

ガイドラインは何のために作られたか

厚生労働省は2019年6月3日、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を医療機関に周知しました。医療機関に勤める職員を読み手として想定した文書です。

根拠:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」(2026年9月現在)

作られた背景には、身元保証人を求める慣行が病院ごとにばらばらで、対応に困る現場が多かったという事情があります。ガイドラインは、身元保証人を一律に求めるのではなく、その人に何を期待していたのかを分けて考え、それぞれに別の手立てを当てるという考え方を示しました。

2022年には、判断が難しい事例を集めた事例集も追加されています。医療面の課題と、法律や倫理の面での懸念、そして対応案が整理されており、現場の迷いに応える内容になっています。

「身元保証人」という言葉を分解する

身元保証人という一語には、まったく性質の違う役割が重ねられています。ガイドラインはこれを分けて考えるよう求めており、分けてみると、ひとりで全部を引き受けられる人はもともと多くないとわかります。

病院が身元保証人に期待してきたのは、おおむね次のような機能です。

期待される機能本当に必要なこと
緊急時の連絡先容体が変わったときに連絡がつく相手がいること
入院費の支払い費用が滞りなく支払われる見込みがあること
退院後の生活の場退院先が確保でき、退院の調整ができること
医療行為への同意本人の意思を確認する手順が取れること
亡くなった後の対応遺体や遺品の引き取り先が決まっていること

この表を右側から眺めると、見え方が変わります。必要なのは保証人という立場の人ではなく、それぞれの場面で機能する仕組みです。連絡先は友人でも支援機関でもよく、費用は年金や預貯金から支払えるなら問題になりません。

ちなみに、入院費の支払いについては、高額療養費制度の限度額適用認定証を用意しておくと、窓口での負担額そのものが抑えられます。支払い能力への不安がやわらぐと、病院側の懸念も小さくなります。

判断能力の状態によって対応は変わる

ガイドラインは、患者本人の判断能力がどの程度あるかによって、進め方を三つに分けています。どの場合でも出発点は本人の意思の尊重に置かれています。

判断能力が十分にある場合

本人の意向を確かめたうえで、親族や友人知人の有無を確認し、緊急連絡先になれる人がいるかどうかを尋ねる流れになります。連絡先は親族でなければならないという決まりはありません。

この段階でいちばん大切なのは、本人が自分の希望を伝えられることです。治療の方針についても、退院後の暮らしについても、本人の考えが土台になります。

判断能力が不十分で、成年後見制度を利用している場合

成年後見人や保佐人、補助人がいる場合は、その人に緊急連絡先になれるかどうかを確認します。任意後見契約を結んでいれば、任意後見人が同じ役割を担います。

ただし、後見人には医療行為に同意する権限がありません。財産管理や契約の代理はできても、手術を受けるかどうかを本人に代わって決めることはできない点は、知っておくと混乱を避けられます。

判断能力が不十分で、後見人もいない場合

このときは、医師や看護師、医療ソーシャルワーカーなどで構成される医療・ケアチームが、本人にとって最善と考えられる方針を話し合って決めていきます。過去に本人が語っていた希望や、生活の様子からうかがえる価値観が手がかりになります。

院内で倫理カンファレンスを開いたり、臨床倫理委員会にはかったりする体制を整えることも、ガイドラインは有効な方法として挙げています。ひとりの医師の判断に委ねない仕組みがある、と考えるとよいでしょう。

医療への同意は誰がするのか

手術や検査への同意は、本人だけが持つ権利です。家族に同意権を認めた法律の規定はなく、これは身寄りの有無にかかわらず同じです。

家族のサインを求める書類が広く使われているため誤解されやすいのですが、あれは家族に決めてもらうための手続きではありません。本人の意思を確かめる手がかりを増やし、後々の行き違いを防ぐための慣行にすぎません。

そう考えると、身寄りがないことは同意の場面での決定的な不利にはなりません。むしろ大切なのは、自分の希望を前もって言葉にして残しておくことです。

元気なうちに用意できる備え

制度の側が整っていても、自分の側で用意しておけることはあります。どれも入院してからでは間に合いにくいものばかりです。

  1. 緊急連絡先を決めて、相手に伝えておく。親族でなくてもかまいません。友人、成年後見人、支援を行う団体などが考えられます
  2. 任意後見契約を結んでおく。判断能力が下がったときに、財産管理や契約を任せる人をあらかじめ決めておく契約です
  3. 死後事務委任契約を用意する。亡くなった後の届出、葬儀、遺品の整理などを託しておけます
  4. 終末期医療についての希望を書き残す。尊厳死宣言書やエンディングノートに、延命治療をどうしたいかを記しておきます
  5. 健康保険証と限度額適用認定証、お薬手帳をまとめておく。入院時にすぐ出せる場所に置いておくと安心です

費用の目安として、任意後見契約は公正証書で作成するため、公証役場の手数料が1万1000円程度かかります。これに専門家へ依頼する場合の報酬が加わります。※金額は目安であり、契約内容や依頼先によって変わります。

すべてを一度にそろえる必要はありません。まずは緊急連絡先を決めて相手に伝えるところから始めれば、それだけでも入院時のやりとりはずいぶん楽になります。

よくある質問

身元保証人の欄が空欄のままだと入院できませんか

空欄であることだけを理由に入院を断ることはできません。病院が何を心配しているのかを聞き、連絡先や支払いの見込みといった具体的な点に答えていくと、話が前に進みやすくなります。

民間の身元保証サービスは使ったほうがよいですか

選択肢のひとつですが、契約前に内容と費用をよく確かめることをおすすめします。預託金の管理方法、解約時の返金、どこまでの業務を引き受けるのかは、事業者によって大きく違います。

成年後見人がいれば入院の手続きは全部任せられますか

契約や支払いの手続きは任せられますが、医療行為への同意は後見人の権限に含まれません。同意の場面では、本人の意思を確認する手順が別に取られます。

ガイドラインは患者が読んでもよいものですか

公開されている文書なので、どなたでも読めます。医療機関向けに書かれていますが、病院がどう動くことになっているかを知っておくと、相談の際に話が通じやすくなります。

まとめ

身元保証人がいないことだけを理由に入院を断ることは、医師法第19条第1項に反します。厚生労働省のガイドラインは、身元保証人に重ねられてきた役割を機能ごとに分け、それぞれに別の手立てを当てる考え方を示しました。緊急連絡先、支払い、退院先、医療同意、亡くなった後の対応は、それぞれ違う方法で備えられます。

できることから少しずつ整えていけば、頼れる家族がいなくても、必要な医療は受けられます。困ったときは、病院の医療相談室や地域包括支援センターに声をかけてみてください。相談できる窓口があること自体が、ひとつの備えになります。

※制度や運用は見直されることがあります。手続きの詳細は、医療機関の相談窓口やお住まいの自治体にご確認ください。

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