親の遺体の引き取りは拒否できる|費用はどうなる

長く連絡を取っていない親が亡くなり、病院や警察、自治体から遺体の引き取りを求める連絡が来ることがあります。遺体を引き取ることを義務づけた法律はないため、断ること自体は可能です。引き取る人がいない場合は、死亡地の市町村長が火葬を行う仕組みが用意されています。

ただし、その費用については相続人や扶養義務者に請求される場合があるため、断れば何も生じないというわけではありません。費用の負担がどの順序で決まるかを知っておくと、連絡を受けたときに落ち着いて判断できます。

※2026年9月現在の情報です。自治体ごとに運用が異なる部分があるため、実際の対応は連絡元の窓口にご確認ください。

目次

遺体の引き取りを義務づける法律はない

民法にも墓地埋葬法にも、親族に遺体の引き取りを命じる規定は置かれていません。病院や警察から連絡が来るのは、慣行として親族をたどっているためであり、法律上の義務にもとづく請求ではありません。

引き取らないという判断を伝えることは、それ自体が違法になるものではありません。理由を詳しく説明する必要もなく、引き取れない旨を伝えれば足ります。

ただし、断ったあとの手続きが自動的に完結するわけではありません。誰が火葬を行い、その費用を誰が負担するのかという問題が残ります。

引き取る人がいないときは、市町村長が火葬を行う

墓地、埋葬等に関する法律第9条第1項は、死体の埋葬または火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行わなければならないと定めています。

根拠:墓地、埋葬等に関する法律(e-Gov法令検索)第9条第1項

この規定があるため、誰も引き取らない状態で遺体が放置されることはありません。市町村が火葬を行い、遺骨は一定期間保管された後、無縁納骨堂などに納められるのが一般的な流れです。

遺骨の保管期間や納め先は自治体によって異なります。後から遺骨を引き取りたくなる可能性が少しでもあるなら、火葬を行った市町村の担当課に保管の方法を確認しておくとよいでしょう。

費用は誰が負担するのか

市町村が火葬を行ったときの費用については、墓地埋葬法第9条第2項により、行旅病人及行旅死亡人取扱法の規定が準用されます。同法第11条は、費用の負担の順序を次のように定めています。

順番負担する者内容
1番目遺留の金銭・有価証券亡くなった本人が残したお金をまず充てる
2番目相続人遺留の財産で足りないときに負担する
3番目扶養義務者相続人から弁償を得られないときに負担する

根拠:行旅病人及行旅死亡人取扱法(e-Gov法令検索)第11条

まず本人が残したお金が充てられます。預貯金や現金が火葬費用を上回っていれば、親族に請求が及ぶことはありません。

同法第15条は、この費用について所在地の市町村費でいったん立て替えると定めたうえで、弁償金の徴収については市町村税の滞納処分の例によるとしています。請求が届いた場合、放置すると滞納処分の手続きに進む可能性があるため、支払えない事情があるなら早めに窓口へ相談してください。

相続放棄をすれば、相続人ではなくなる

相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます。行旅法第11条の順序でいえば、2番目の相続人としての負担からは外れることになります。

放棄は家庭裁判所への申述によって行い、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きをする必要があります。親と疎遠だった場合、亡くなったことを知るのが遅れることもありますが、この3か月は「知った時」から数えます。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第915条第1項・第938条

注意したいのは、相続放棄をしても扶養義務者としての順位までは消えない点です。直系血族は互いに扶養をする義務を負うため、3番目の負担者として請求を受ける可能性は残ります。

また、火葬費用を相続財産から支払ってしまうと、財産を処分したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれがあります。放棄を検討している間は、本人の預金に手をつけないでください。

お墓を継ぐ話とは、切り分けて考える

遺体の引き取りと、お墓や仏壇を引き継ぐことは別の問題です。民法第897条第1項は、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定めています。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第897条

祭祀の承継は相続とは別の枠組みで、相続放棄をしても自動的に免れるものではありません。逆に、遺体を引き取らなかったからといって、お墓の管理を必ず負わされるわけでもありません。

承継すべき者が誰かをめぐって話がまとまらない場合は、家庭裁判所が定めることになります。親族から墓の管理を求められた場合も、その場で引き受けると答える必要はありません。

連絡を受けたときの進め方

突然の連絡に、その場で結論を出す必要はありません。次の順で確認していくと、判断しやすくなります。

  1. 連絡元と用件を確認する:病院、警察、自治体のどこからか、求められているのは遺体の引き取りか、それとも費用の支払いかを聞き取ります。
  2. 回答の期限を聞く:いつまでに返事が必要かを確認し、考える時間を確保します。
  3. 引き取らない旨を伝える:引き取れない場合は、その旨を明確に伝えます。理由を詳しく話す必要はありません。
  4. 相続の判断を分けて考える:財産と負債の状況を確認し、相続放棄をするかどうかを3か月以内に判断します。

財産に手をつけないまま相続放棄を進めるのが基本です。親の借金の有無がわからない場合は、放棄の期間を家庭裁判所で伸長してもらう方法もあります。

親との関係全般について整理した親と縁を切る方法|法律でできること・できないこともあわせてご覧ください。

よくある質問

引き取りを断ると、薄情だと責められませんか。

引き取りを義務づける法律はなく、断ることは制度上想定された選択です。市町村長が火葬を行う仕組みが法律に置かれているのは、引き取る人がいない場合があることを前提としているためです。

火葬費用はいくらぐらい請求されますか。

自治体が行う火葬の費用は、地域や内容によって異なります。本人が残したお金が充てられた後の不足分が請求されるため、金額は状況によって変わります。請求書が届いた場合は、内訳を窓口で確認してください。

相続放棄をしたのに費用を請求されました。

相続人としての負担からは外れますが、直系血族は扶養義務者にあたるため、その立場で請求される場合があります。支払いが難しい事情があるときは、請求元の市町村に相談してください。

遺骨だけを後から引き取ることはできますか。

自治体が保管している期間内であれば、引き取れる場合があります。保管期間や手続きは自治体によって異なるため、火葬を行った市町村に確認してください。

まとめ

遺体の引き取りを義務づける法律はないため、疎遠な親の遺体であっても引き取りを断ることができます。引き取る人がいない場合は、墓地埋葬法第9条第1項により死亡地の市町村長が火葬を行います。

費用については、まず本人が残したお金が充てられ、足りないときに相続人、さらに扶養義務者という順で負担が求められます。相続放棄をすれば相続人としての負担からは外れますが、扶養義務者としての立場は残ります。連絡を受けたときは、引き取るかどうかと相続をどうするかを分けて考え、財産に手をつけないまま3か月以内に判断してください。

このテーマの全体像

おひとり様の手続きを、暮らしの場面から探す

おひとり様の入口ページへ →

ひとりで抱えず、ご相談ください

相談する
目次