同性パートナーへの遺言書の書き方|遺贈だけでは足りない理由

書斎の机に便箋と万年筆が置かれたイラスト

同性パートナーに財産を遺す遺言書は、「パートナーに遺贈する」と書くだけでは十分に機能しません。パートナーは法定相続人ではないため、遺言執行者を指定していなければ、預金の払い戻しや不動産の名義変更に親などの相続人全員の協力が必要になり、パートナーが先に亡くなった場合には遺贈そのものが効力を失います。遺言書に入れておきたい6つのポイント、作成方式の選び方、二人で作るときの注意点、税金の扱いを順に取り上げます。

※2026年10月現在の情報です。2026年6月に成立した民法等改正法により遺言制度の一部が見直されますが、施行は政令で定める日からとなっています。個別の内容は公証役場や専門家にご確認ください。

目次

パートナーへの遺言書が、相続人への遺言書と違う点

同性パートナーは法律上の配偶者ではないため、法定相続人になりません。遺言書がなければ、財産はすべて子、親、きょうだいなどの相続人に渡り、パートナーには何も遺らないのが原則です。財産を渡す方法の全体像は、同性パートナーに相続権はない|財産を渡す4つの方法で取り上げています。

遺言書でパートナーに財産を渡す場合、相続人に対する「相続させる」ではなく、相続人以外に対する「遺贈」として扱われます。この違いが、手続きの進めやすさに大きく影響します。

項目相続人に「相続させる」場合パートナーに「遺贈する」場合
不動産の名義変更受け取る相続人が単独で申請できる遺言執行者か相続人全員と共同で申請する
受け取る人が先に亡くなった場合原則として効力を生じない効力を生じない(民法第994条)
相続税配偶者控除などの軽減がある場合がある税額が2割加算される
遺留分他の相続人から請求されることがある親が相続人なら請求されることがある

根拠:民法(e-Gov法令検索)第994条・第1012条、相続税法(e-Gov法令検索)第18条

相続人どうしであれば手続きがある程度自動的に進む場面でも、パートナーへの遺贈では、相続人の協力が得られないと手続きが止まるおそれがあります。遺言書の書き方で、この差を埋めておく必要があります。

遺言書に入れておきたい6つのポイント

遺言書に入れる6つのポイントを整理した図解

同性パートナーへの遺言書では、次の6つのポイントを押さえておくと、亡くなった後の手続きが止まりにくくなります。

①「遺贈する」と明記し、受け取る人を特定する

パートナーへの財産の移転は「遺贈する」と書き、受け取る人は氏名だけでなく生年月日と住所も記載して特定します。同姓同名の人と区別できなければ、手続きの場面で本人確認に手間がかかります。「パートナーに任せる」「よろしく頼む」といったあいまいな表現は、財産を渡す意思なのかが分からず、争いの原因になります。

②財産を特定し、財産目録を付ける

「すべての財産を遺贈する」と書く包括遺贈と、「〇〇銀行〇〇支店の普通預金」のように財産を特定する特定遺贈があります。包括遺贈を受けた人は相続人と同一の権利義務を負うため、借金があればそれも引き継ぐ点に注意が必要です。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第990条

自筆証書遺言では、財産目録はパソコンで作成したものや通帳のコピーを添付することもでき、その場合は目録の各ページに署名と押印をします。不動産は登記事項証明書のとおりに、預金は金融機関名・支店名・口座番号まで書いておくと、手続きが円滑に進みます。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第968条第2項

③遺言執行者を指定する

パートナーへの遺言書で最も重要なのが、遺言執行者の指定です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために相続財産の管理その他一切の行為をする権利義務を持ち、遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行えます。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第1012条第1項・第2項

遺言執行者がいなければ、不動産の名義変更や預金の払い戻しで、親やきょうだいなどの相続人全員の署名や印鑑証明書を求められることがあります。相続人がパートナーとの関係に否定的な場合、協力が得られずに手続きが進まなくなるため、遺言執行者を指定しておくことで、相続人の協力がなくても遺贈を実現できる状態にしておきます。

遺言執行者には、パートナー本人を指定することもできます。ただし、パートナーが高齢であったり、相続人との交渉を負担に感じたりする場合は、行政書士や弁護士などの専門家を指定する方法もあります。

④予備的遺言を入れる

民法第994条第1項は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈は効力を生じないと定めています。パートナーが先に亡くなると、パートナーに遺贈するとした財産は宙に浮き、相続人に渡ることになります。

これを避けるには、「パートナーが遺言者より先に死亡した場合は、その財産を〇〇に遺贈する」という予備的遺言を入れておきます。渡す先は、パートナーの家族、二人がお世話になった友人、応援したい団体など、自分で決めて構いません。予備的遺言を入れておけば、どちらが先に亡くなっても遺言書を書き直す必要がなくなります。

⑤遺留分への手当てを考える

親が健在で相続人になる場合、親には遺産の3分の1の遺留分があり、遺言で全財産をパートナーに遺贈しても、親から遺留分に相当する金銭の支払いを求められることがあります。きょうだいには遺留分がないため、相続人がきょうだいだけであれば、全財産をパートナーに遺贈できます。

親の遺留分が問題になる場合は、遺留分を請求されたときにどの財産から支払うかを遺言で定めておく、生命保険で支払いの原資を用意しておくといった方法があります。計算方法と対策は、親の遺留分は3分の1|パートナーへの遺贈が削られるで取り上げています。相続人がきょうだいだけになる場合の考え方は、兄弟姉妹に遺留分はない|遺言で全財産を渡せる条件をご覧ください。

⑥付言事項で思いを伝える

遺言書の最後には、法的な効力を持たない付言事項として、パートナーへの感謝や、相続人である家族へのお願いを書くことができます。なぜパートナーに財産を遺すのかを家族に向けて書いておくと、相続人の理解を得やすくなり、遺留分の請求や遺言の有効性をめぐる争いを避ける助けになることがあります。

遺言書の方式は3つから選ぶ

遺言書の主な方式は、自筆証書遺言、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使う方法、公正証書遺言の3つです。パートナーへの遺贈では、相続人との争いに備えて、確実性の高い方式を選ぶことが大切です。

方式費用の目安家庭裁判所の検認向いている場合
自筆証書遺言(自宅で保管)ほぼかからない必要まず一通作っておきたい場合
自筆証書遺言(法務局で保管)保管申請手数料3,900円不要費用を抑えつつ紛失や改ざんを防ぎたい場合
公正証書遺言財産額に応じた手数料+遺言加算13,000円など不要相続人との争いが予想される場合

根拠:法務省「自筆証書遺言書保管制度 手数料」、日本公証人連合会「公正証書遺言の作成手数料」、法務局における遺言書の保管等に関する法律(e-Gov法令検索)第11条

遺言書の3つの方式を比べた図解

相続人が親で、パートナーとの関係に理解がない場合は、公正証書遺言をおすすめします。公証人が遺言者の意思と判断能力を確認して作成するため、後から「本人の意思ではなかった」「判断能力がなかった」と争われにくくなります。2025年10月からは、公証人が相当と認める場合にウェブ会議を利用して公正証書を作成できる仕組みも順次始まっています。

公正証書遺言の作成手数料の計算例と、任意後見契約などと一緒に作る場合の総額は、同性カップルの公正証書4点セット|費用と手順にまとめています。

二人で遺言書を作るときの注意点

同性カップルが互いに財産を遺し合う場合は、それぞれが別々の遺言書を作る必要があります。民法第975条は、遺言は二人以上の者が同一の証書ですることができないと定めており、一枚の紙に二人の遺言をまとめると無効になります。

根拠:民法(e-Gov法令検索)第975条

互いの遺言書は、内容をそろえて同じ日に作成しておくと分かりやすくなります。二人とも予備的遺言を入れ、同時に亡くなった場合や、相手が先に亡くなった場合の財産の行き先まで決めておけば、どのような順序で亡くなっても財産が意図しない相手に渡ることを防げます。

関係を解消した場合は、遺言書の書き直しを忘れないようにしてください。遺言はいつでも撤回でき、新しい遺言書で前の遺言を撤回する旨を書けば、古い遺言書の内容は効力を失います。

税金の扱いも確認しておく

パートナーが遺贈を受けると、相続税の課税対象になります。相続税法第18条により、被相続人の配偶者や一親等の血族以外の人が遺贈を受けた場合、相続税額に2割が加算されるため、パートナーは法律上の配偶者よりも税負担が重くなります。配偶者の税額軽減の制度も使えません。

相続税がかかるのは、遺産の総額が基礎控除額を超える場合です。基礎控除額は相続人の人数によって決まり、パートナーは相続人の人数に含まれません。不動産を遺贈する場合は相続税のほか登録免許税もかかるため、遺産の規模が大きい場合は、遺言書を作る前に税理士に試算を依頼しておくと安心です。

遺言書とあわせて整えておきたい書面

遺言書が効力を持つのは亡くなった後の財産の行き先だけです。生前に判断能力が低下した場合や、葬儀・住まいの片付けなど財産以外の手続きには、別の書面が必要になります。

  • 任意後見契約:判断能力が低下したときに、財産管理や契約の手続きをパートナーに任せる
  • 死後事務委任契約:葬儀、納骨、住まいの解約、遺品の整理をパートナーに任せる
  • 医療に関する意思表示書:病状説明や面会、治療方針の相談にパートナーを加えてほしいことを残す

住まいをパートナーに遺す場合の注意点は、同性パートナーが死亡したら家に住み続けられる?|借家権と遺言で取り上げています。判断能力の低下に備える契約は、同性パートナーの任意後見|認知症に備える契約と手順をご覧ください。

よくある質問

遺言書があれば、親の同意なしにパートナーが財産を受け取れますか。

遺言書で遺言執行者を指定していれば、遺言執行者が親の同意なしに遺贈の手続きを進められます。遺言執行者がいない場合は、手続きの場面で相続人の協力を求められることがあるため、遺言執行者の指定は必ず入れておいてください。ただし、親には遺留分があるため、遺留分に相当する金銭の支払いを求められる可能性は残ります。

自筆の遺言書を書いたのですが、書き直したほうがよいですか。

遺言執行者の指定と予備的遺言が入っていない場合は、追加することをおすすめします。新しい遺言書を作れば、前の遺言書と矛盾する部分は新しいほうが優先されます。自筆証書遺言のまま保管するなら、法務局の保管制度を利用すると検認が不要になり、紛失や改ざんの心配もなくなります。

パートナーシップ宣誓をしていれば、遺言書は必要ありませんか。

パートナーシップ宣誓制度には相続の効果がないため、宣誓をしていても遺言書がなければパートナーに財産は渡りません。宣誓とは別に、遺言書を作っておく必要があります。

遺言書は何歳から作れますか。

15歳に達した人は遺言をすることができます。若いうちに作っても、財産の状況や二人の関係が変わったときに書き直せばよいため、早めに一通作っておくことに不利益はありません。

まとめ

テーブルに封筒と2つのマグカップが置かれたイラスト

同性パートナーへの遺言書は、相続人への遺言書と違い、「遺贈する」と書くだけでは手続きが止まったり、パートナーが先に亡くなって効力を失ったりするおそれがあります。受け取る人と財産の特定、遺言執行者の指定、予備的遺言、遺留分への手当て、付言事項の6つを押さえておくことが大切です。

二人で遺し合う場合はそれぞれ別の遺言書を作り、相続人との争いが予想される場合は公正証書遺言を選んでください。任意後見契約や死後事務委任契約もあわせて整えておけば、生前から亡くなった後まで、パートナーに財産と手続きを確実に託せる備えが整います。

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