
分籍をしても、親との縁は法律上切れません。分籍は親の戸籍から抜けて自分を筆頭者とする新しい戸籍を作る手続きにすぎず、親子関係、扶養義務、相続の関係はそのまま残ります。さらに、親は直系尊属として分籍後の子の戸籍や戸籍の附票を請求できる立場にあるため、分籍だけでは住所を知られることも防げません。分籍で実際に変わること、変わらないこと、住所を守るために別に必要な手続き、分籍する前に知っておきたい注意点を順に取り上げます。
※2026年10月現在の情報です。届出の窓口や必要書類は市区町村によって異なる場合があるため、届け出る前に各窓口にご確認ください。
分籍で変わるのは、戸籍の「単位」だけ
戸籍法第21条は、成年に達した者は分籍をすることができると定め、分籍の届出があったときは新戸籍を編製するとしています。分籍によって変わるのは、自分がどの戸籍に記載されるかという戸籍の単位であり、親との身分関係そのものではありません。
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第21条
戸籍は、夫婦とその間の未婚の子を単位として作られています。そのため、結婚をすれば親の戸籍から抜けて新しい戸籍が作られますが、結婚していない成人は、分籍をしない限り親の戸籍に残り続けます。分籍は、結婚を待たずに自分だけの戸籍を持つための手続きと考えると分かりやすくなります。
横浜市の案内でも、分籍しても親子関係などの身分関係は変わらないことが明記されています。分籍は戸籍の上での区切りをつける手続きであり、法律上の関係を解消する手続きではない点を、最初に押さえておいてください。
根拠:横浜市「現在の戸籍から分かれて自己の単独の戸籍をつくること(分籍届)はできますか。」
分籍で変わること、変わらないこと

分籍の効果と限界を並べると、次のようになります。変わらないことのほうが多く、しかも重要な項目が並ぶ点に注意してください。
| 分籍で変わること | 分籍でも変わらないこと |
|---|---|
| 自分が筆頭者の新しい戸籍ができる | 法律上の親子関係 |
| 自分の戸籍謄本に親の名前が載らなくなる | 直系血族としての扶養義務 |
| 本籍を国内の好きな場所に置ける | 親子が互いに相続人になる関係 |
| 家庭裁判所に氏の変更を申し立てられる立場になる | 親が子の戸籍や附票を請求できること |
戸籍謄本に親の名前が載らなくなる
分籍後に取得する自分の戸籍謄本には、同じ戸籍に入っている人として親の名前が記載されなくなります。就職や各種の手続きで戸籍謄本を提出する場面で、親の情報が相手の目に触れにくくなる点は、分籍の実用的な効果です。
ただし、新しい戸籍の身分事項には、分籍した日と従前の本籍が記載されます。また、自分の欄の父母の氏名もそのまま記載されるため、戸籍から親の存在が完全に消えるわけではありません。
氏の変更を申し立てる前提が整う
戸籍法第107条第1項により、やむを得ない事由で氏を変更するには、戸籍の筆頭者とその配偶者が家庭裁判所の許可を得る必要があります。親の戸籍に入ったままでは筆頭者になれないため、親と違う名字を名乗りたい場合は、分籍がその前段階の手続きになります。
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第107条第1項
もっとも、「やむを得ない事由」は厳格に判断されており、親と縁を切りたいという理由だけで許可されるとは限りません。氏の変更まで考えている場合は、家庭裁判所の手続案内で必要な資料を事前に確認しておくとよいでしょう。
親は分籍後も、子の戸籍と附票を取れる
分籍で最も誤解されやすいのが、親に戸籍を取られなくなるという思い込みです。戸籍法第10条第1項は、戸籍に記載されている者の配偶者、直系尊属、直系卑属が、その戸籍の謄本などを請求できると定めており、親は子にとっての直系尊属に当たります。
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第10条第1項
2024年3月1日からは、本人、配偶者、直系尊属、直系卑属であれば、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書を請求できる広域交付が始まりました。分籍して本籍を遠くに移しても、親が近くの役所で子の戸籍を取得できる状況は変わりません。
根拠:法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
さらに注意したいのが、戸籍の附票です。戸籍の附票は、その戸籍に記載されている人の住所の履歴を記録したもので、住民基本台帳法第20条第1項により、記載されている者の直系尊属も写しの交付を請求できます。つまり親は、子の戸籍から附票へとたどることで、現在の住所を知ることができます。
根拠:住民基本台帳法(e-Gov法令検索)第20条第1項

住所を知られたくないなら、支援措置を申し出る
親に住所を知られたくない場合に必要なのは、分籍ではなく、住民基本台帳事務における支援措置の申出です。配偶者からの暴力、ストーカー行為、児童虐待やこれらに準ずる行為の被害者が市区町村に申し出て、支援の必要性が確認されると、加害者からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付請求が制限されます。
支援措置は、住民票のある市区町村だけでなく、本籍地の市区町村にも附票について効果が及ぶよう手続きが進められます。分籍によって本籍地を変えた場合は、新しい本籍地の市区町村でも附票の交付が制限されているかを確認しておくと安心です。
申出の要件や必要な準備は、住民票の閲覧制限|親に住所を知られない支援措置で詳しく取り上げています。転居を予定している場合は、引っ越しの前に手続きの順番を確認してください。
分籍の手続きは、届出1通で完了する
分籍そのものの手続きは簡単で、親の同意も不要です。手数料もかかりません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届け出られる人 | 成年に達した人(戸籍の筆頭者とその配偶者を除く) |
| 届出先 | 住所地、現在の本籍地、新しい本籍地のいずれかの市区町村 |
| 必要なもの | 分籍届1通、本人確認書類 |
| 戸籍謄本の添付 | 2024年3月以降は原則不要(コンピュータ化されていない戸籍の場合を除く) |
| 新しい本籍 | 日本国内であればどこでも設定できる |
根拠:戸籍法(e-Gov法令検索)第21条・第25条・第100条・第101条、横浜市「分籍届」FAQ
届出の流れや書き方は、分籍とは?手続きの流れや場所、知っておくべき注意点を徹底解説で順を追って取り上げています。
分籍する前に知っておきたい注意点
分籍は手軽な手続きですが、後から取り消すことはできません。届け出る前に、次の点を確認しておいてください。
元の戸籍には戻れない
一度分籍すると、分籍前の親の戸籍に戻ることはできません。将来、親との関係が修復しても同じです。ただし、元の戸籍に戻れないことで日常生活に支障が出ることはほとんどないため、戻れないこと自体を過度に心配する必要はありません。
親の戸籍にも分籍の記載が残る
分籍をすると、親の戸籍の自分の欄には、分籍によって除籍された旨が記載されます。親が自分の戸籍を取得したときに、子が分籍したことは分かるようになります。分籍は親に通知されるわけではありませんが、知られないまま済ませられる手続きでもありません。
相続の手続きで戸籍を集める手間は変わらない
親が亡くなったときの相続手続きでは、相続人を確定するために親の出生から死亡までの戸籍が必要になります。分籍していても子は相続人のままであり、遺産を受け取るにせよ相続放棄をするにせよ、手続きの関与は避けられません。
縁を切りたい気持ちに沿うには、分籍以外の手段を組み合わせる
分籍は、戸籍の上で親と区切りをつけるという気持ちの整理には役立ちます。しかし、親との関わりを生活のなかで断つには、分籍に加えて別の手段を組み合わせる必要があります。
- 住所を知られないようにする:住民票と戸籍の附票について支援措置を申し出る
- 扶養の求めに備える:扶養義務の範囲と、家庭裁判所の手続きを知っておく
- 緊急時に親へ連絡させない:緊急連絡先と医療に関する意思を書面で残す
- 財産を親に渡さない:遺言書で財産の行き先を決めておく
親の扶養義務がどこまで及ぶのかは、親の扶養義務は拒否できる?|民法877条と絶縁の限界で取り上げています。法律でできることとできないことの全体像は親と縁を切る方法|法律でできること・できないこと、緊急時や死後に備える書面は親と絶縁するとき整える4つの書類と備え方で確認できます。
よくある質問
分籍したことは、親に通知されますか。
市区町村から親に通知が送られることはありません。ただし、親の戸籍には分籍によって除籍された旨が記載されるため、親が自分の戸籍を取得すれば分かります。
分籍すれば、親の借金を背負わなくて済みますか。
分籍しても相続人の地位は変わらないため、親が亡くなれば借金も相続の対象になります。借金を引き継がないためには、相続の開始を知った時から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄を申述する必要があります。親の生前に借金の返済を求められても、子に支払う義務はありません。
分籍した後に結婚するとどうなりますか。
自分の氏を夫婦の氏にする場合は、分籍ですでに自分が筆頭者になっているため、その戸籍に配偶者が入ります。相手の氏を夫婦の氏にする場合は、相手を筆頭者とする戸籍に移ることになり、分籍で作った自分の戸籍からは除かれます。いずれの場合も、親の戸籍に戻ることはありません。
分籍と同時に本籍を親の知らない場所にすれば、戸籍を取られませんか。
親は直系尊属として子の戸籍を請求できる立場にあり、親の戸籍には分籍後の新しい本籍が記載されるため、本籍の場所を変えても請求は防げません。2024年3月以降は本籍地以外の窓口でも戸籍証明書を請求できるため、遠方に本籍を置くことの効果もほとんどありません。
まとめ

分籍をすると自分だけの戸籍ができ、戸籍謄本に親の名前が載らなくなりますが、親子関係、扶養義務、相続の関係は変わりません。親は直系尊属として、分籍後も子の戸籍や戸籍の附票を請求できるため、分籍だけでは住所を知られることも防げません。
住所を守るには住民票と附票の支援措置、扶養や相続への備えにはそれぞれ別の手続きが必要です。分籍は戸籍の上での区切りとして位置づけ、そのほかの手段と組み合わせて、自分の暮らしを守る形を整えていきましょう。
